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僕らは蒼穹の下で嘘を吐く

※切ない/メリバ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 揺りかごユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 彼の笑顔もユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり カタン ゆらり カタン ゆらり 「俺、翔くんが好きだ」 そう俺が告白した日から翔くんの中で何かが壊れ始めた。 アトリエの窓を背にして置いたロッキングチェア。 そこが翔くんのお気に入りの場所。 翔くんは今日もそこに座り、 俺がカンバスに絵を描く姿を見て微笑んでいた。 開かれた窓から心地よく吹く風に真っ白なレースのカーテンが揺れる。 そのカーテンはまるで聖母マリアのヴェールのように 翔くんを包み込んでいた。 「ねぇ、要くん・・・」 「ん?」 「俺ね・・・赤ちゃんが出来たみたい」 「・・・・・・」 「要くん?嬉しくない・・・の?」 目の前にあった俺と翔くんの関係が一瞬にして崩れ、 俺は声を失い、 今は長い沈黙だけが俺と翔くんの間を繋いでいた。 翔くんの唇から零れた告白に俺の中の何かが壊れた。 翔くんが悲しげに頸を横に傾け救いを求める様な瞳で俺を見ている。 そんな翔くんの顔を見ていたくなくて、 俺は喉の奥から搾り出すように何とか言葉を紡ぎ出す。 けれど・・・・ その声は掠れて彼の名を呼ぶだけで精一杯だった。 「翔・・・く・・・ん・・・」 その声にもう一度翔くんは同じ質問を繰り返す。 「要くん・・・やっぱ嬉しくない・・・よ・・・ね・・・?」 翔くんは優しいから俺の告白を受け止めようとした。 でも、 翔くんは俺と違って常識を塗り固めた様な人だから、 それを受け容れるのは容易ではなかったんだと思う。 翔くんはこの告白を受け止める為に自分の中の一つを壊した。 男が男を愛する。 そんな非日常的な恋愛を、 翔くんはやっぱり心の何処かで認められなかったのかもしれない。 それでも俺の告白を受け容れてくれたのは愛があったから? クラスメイトとしてだけではない愛がそこにはあったからだって信じたい。 だから俺は彼からの告白に笑って答えてあげたいと思った。 いや・・・・違う。 彼のその問いに笑顔で応えてあげなければいけないと思う。 翔くんが俺を受け容れてくれたように・・・ 「嬉しいよ」 まだ少し掠れる声で俺が云うと、 不安そうに伏せ目がちになっていた翔くんの瞳が輝きを取り戻し 「良かった」 そう云って今度は目を細めて翔くんは笑った。 翔くんのお気に入りのロッキングチェア。 翔くんは今日もその椅子に座り揺れながら、 俺がカンバスに絵を描く姿を見て微笑んでいる。 ロッキングチェアは翔くんの揺りかごみたいだ。 揺らして 揺れて 揺りかごの中で翔くんは夢を見る。 揺らして 揺らされて 揺れながら翔くんは存在しない幼子をその腕の中に抱く。 揺らして 揺れて そして翔くんが幼子の揺りかごになる。 カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 揺りかごユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 彼の笑顔もユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 俺の笑顔もユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 世界もユレテ 開かれた窓から心地よく吹く風に真っ白なレースのカーテンが揺れる。 そのカーテンはまるで聖母マリアのヴェールのように 翔くんを包み込んで・・・・・・ カーテン越しに見えた空は泣きたくなるほどに澄んだ青空だった。 「要くん、ホラ、笑ったよ・・・」 「うん、笑ったね・・・・」 愛してるから・・・・ 愛されてるから・・・ 僕らは蒼穹の下で嘘つく。 カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 揺りかごユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 彼の笑顔もユレテ カタン ゆらり カタン ゆらり ユラユラ揺れて 俺の笑顔もユレテ ガタン ぐらり ガタン ぐらり ガタン ぐらり ガタン ぐらり グラグラ揺れて 僕らの世界が壊れた・・・

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