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OZの魔法使い

※近未来モノ/切ない 2XX3年10月XX日02:58 バイオロイドOZⅡ型プロトタイプ 機能全停止 私はリョウ。 バイオロイドOZⅡ型プロトタイプ。 私の創造主であるMasterの全てを人工知能にインプットされたヒューマノイド。 私の役目はMasterの大切な方に『愛している。』と伝えることである。 私が生まれたのはMasterが亡くなる41日前。 残された時間をMasterは私を完成させる為に全て費やした。 20XX年。 突然発生した未知のウイルス。 脳網様体に進入し、中脳の機能を徐々に低下させ人を眠らせる。 感染後半年程で発症し、最期は昏睡状態に陥り、やがて脳死となる病。 通称『眠り姫病』 織井博士 20X5年10月に感染。 20X6年1月に発病。 20X6年11月・・・ 私はリョウから諒になった。 「リョウ、君には・・・俺の・・全てをプログラムし・・た。  記憶だけ・・・じゃない。  姿も声も・・・仕草まで・・も・・・だから・・・彼が帰ってきたら・・・君が俺になっ・・・・て伝えて・・欲し・・い愛して・・る・・・・と・・・・」 「Yes My Master」 「今か・・ら・・・・君・・が諒・・・・だ・・・・」 「Yes My Master」 「・・・・・・」 私はMasterの大切な方が 『この花、諒くんみたいだな』 そう云ったとインプットされているその花の下に、先ほどまで上下していた胸から規則正しい鼓動を刻まなくなったMasterの亡骸を埋葬した。 私はインプットされた人工知能の一部を引き出す。 My Masterの大切な方の名は尚斗。 『世界を見てきたいんだ。  そしてこの目で見た俺だけの世界を描きたい。』 そう云って彼は何時帰るとも告げず旅に出た。 Masterの 「ずっと此処であなたの帰りを待ってるから・・・」 という言葉に『うん』と頷いただけの尚斗。 その彼をMasterはずっと此処で待ち続け、彼が旅立ってから3年後、ウイルスに感染したのだ。 私はMasterが何時も羽織っていた白衣を身につけ、Masterが残した研究を引き継ぎ、Masterに代わり彼の帰りを待ち続けた。 Masterの亡骸を養分にしたあの花が2度美しく咲いた秋、彼は何の前触れも無く此処へ帰ってきた。 「お帰り、尚斗くん」 私はプログラムされている通りの声色と笑顔で彼を迎えると 「諒・・・ちゃん?」 彼はそう私を呼んだ。 私はその言葉にフリーズする。 人工知能にインプットされていた私の彼からの呼び名は『諒くん』だったからだ。 「・・・・・」 動き出さない思考と続かない言葉。 けれど・・・・ 彼はふわりと笑って私に抱きつき、やはり私を『諒くん』ではなく『諒ちゃん』と呼び 「ただいま。」 と耳元で呟き私の左頬にキスをした。 私の鼻をくすぐる彼の髪。 その髪から油絵の独特な香りがした様な錯覚を私は起こす。 これも私にインプットされた匂いなのだが、私は不思議とその香りに落ち着きを取り戻した。 これはMasterの感情なのだろうか? それを造られた人工知能が理解不能と解析するが、プログラムされているMasterの感情がフリーズした私を再起動させた。 「お帰り、尚斗くん。」 やっと私の口から出た言葉にもう一度彼は『うん』と頷いた。 その日からずっと・・・ 朝、彼が私の隣で目覚めると 『愛している。』 そう私は彼に伝えた。 その私の言葉に彼は 「うん、俺も。」 と云った後、視線を床に落とし、少し切なげに瞳を閉じて笑う。 その笑みはまるで泣いている様にも見えた。 晴れの日も、雨の日も、風が吹く日も、雪が降った日も、私は彼に『愛している。』と伝えた。 そして彼も・・・・ 彼がMasterみたいだと云った花が美しく咲いた3度目の秋、Masterと同じウイルスに感染した。 彼が私の隣りで目覚めない朝が増えていく。 それでも私は、眠り続ける彼に『愛している。』と伝えた。 それが私にプログラムされた日常だったから。 純白の色をした雪が積もり、薄紅色の花びらが舞い、水色の雨が降り、オレンジ色の日差しが注ぎ、そして今年も美しいMasterの花が咲いた。 今朝も私は目覚めない彼に『愛している。』と伝える。 すると彼のずっと閉じられていた瞼が開き 「うん、俺も。」 そう云った後、何時もとは違うフワリとした笑みを私に向け、そして 「ねぇ、諒くんの眠る場所に連れてって。」と・・・ 本当に嬉しそうに笑って私に云った。 私は以前よりも軽くなった彼を抱き、Masterの眠る温室に向かう。 その間もずっと、私の腕の中で微笑んだままの彼を私は愛しいと思った。 これも私にインプットされたMasterの感情なのだろうか? それともこれは私の・・・・・・? 温室に着くとMasterが眠っている場所に彼を横たえた。 「やっぱり・・・この花の下にいたんだね。」 彼が『諒くんみたい。』と云った花が咲き誇る上で彼は 「諒くん、ただいま。」 そう云って微笑んだかと思うとゆっくりと瞼を閉じた。 私は彼の胸に耳を置く。 その彼の胸からは、あの日のMasterと同じように何も聞こえなくなっていた。 彼の胸も又、規則正しい鼓動を刻まなくなった。 私の役目は終わりを迎えた。 けれど、私は・・・・・ 彼に『愛している。』と伝えるのを止めなかった。 それはMasterの感情からか? それとも私の感情からなのか・・・・・ そもそも、バイオロイドの私に、私個人の感情など存在しないと人工知能は分析し解析していたが、それでも私は彼に『愛している。』と伝えることが止められなかったのだ。 『此処には魔法使いがいる』 誰かがそう云っているのが何処からか聞こえて来た・・・・・・ 『決して老いることの無い魔法使いが住んでいる。』と。 そして『愛している。』と呟く声がすると。 私は・・・ 一度も『諒くん』とは彼に呼んでもらえなかったOZの魔法使い。 私はリョウ。 バイオロイドOZⅡ型プロトタイプ。 私の創造主であるMasterの全てを人工知能にインプットされたヒューマノイド。 私の役目はMasterの大切な方に『愛している。』と伝えることである。 温室にはMasterと彼によって美しく咲いた花が、何処からか吹いた風に揺れている・・・・・・・・ My Mas・・ter・・・ ワタシ・・ハ・アナ・・・タ・・ノ・・・オヤク・・ニ・・タテタ・・・・ノデショ・・ウ・・カ・・・・・・・ 2XX3年10月XX日02:58 バイオロイドOZⅡ型プロトタイプ 機能全停止 END?

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