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溺れる人魚

※メリバ 海の中でも 陸の上でも 上手く息が出来ないオレは 出来損ないの人魚なのかもしれない 溺れる人魚 子供の頃、姉ちゃんと一緒に読んだ絵本。 シンデレラや眠れる森の美女に白雪姫。 姉ちゃんと読んだ絵本の中のお姫様はみんな、最後のページで幸せそうに王子様の隣で微笑んでるのに、ひとつだけ…幸せになれないお姫様の絵本があった。 住む世界が違う王子様に恋をしてしまった人魚姫の絵本だ。 声と引き換えに2本の足を手に入れ海から陸に上がったのに…恋した王子様に愛されず、人魚姫は海の泡となってしまう。 人魚姫は何故、違う世界に住む王子様に憧れを抱き、叶わぬ恋に身を焦がしてしまったんだろう。 そして王子の命を守る為に、自らの命を絶ち海の泡になることを選んだんだろう。 幼かったオレには人魚姫の気持ちが…分からなかった。 けど…オレは大人になって悠クンに恋をして、少しだけ人魚姫の気持ちが分かったような気がする。 憧れる気持ちも、恋する心も全て…自分ではコントロール不可能で、どうしようも出来ないってことを…オレは大人になって悠クンに恋をして、初めて知った。 母ちゃんの受けてみたら?の一言で変わったオレの人生。 人づきあいが苦手なオレがこんな煌びやかな場所にいること自体、場違いで。 でも…その時のオレにはその場所しかなくて。 それはオレにとってかなりのストレスで。 それでも何とかやってこられたのは…悠クンがいたからだと思う。 本当はいいとこのお坊ちゃんの癖に悪ぶって見せてる悠クンが、時々オレに向けてくれる笑顔に何故か心が安らいだ。 初めて息が出来なくなって倒れそうになったのは…デビューする直前だった。 カメラやファンの前では笑顔を振りまいてんのに、内心ではギラついた瞳で常に誰かを蹴落とそうと考えてる奴等の中にいるのが辛くて、胸が詰まって息ができなくなって。 もともと、誰かと争うとか、奪い合うとか…そう言ったことに興味がないオレ。 けど…オレ自身にその気持ちは無くても、この場にいることで勝手に競争に巻き込まれるのが嫌で…逃げ出したくなった。 なのに…勝手にデビューを決められて。 満足に息を吸うことも出来ないオレなのに、逃げ出すことさえ許されなくなってしまった。 それでもデビューするグループの中に悠クンの顔があったから逃げるのを止めた。 オレとは真逆の太陽みたいに温かい笑顔で笑う悠クンに救われ、オレは胸の中に溜まった物を吐き出しやっと息を吸うことが出来たんだ。 その時だったと思う…悠クンに憧れを感じたのは。 理由は違うけど…オレと同じく、事務所を辞めようと考えていた悠クンなのに、決まったことならやってやろうじゃないか!と嫌そうな顔をしながらも、無理矢理笑みを作って与えられた道を進もうとする悠クンにオレとは違う何かを感じ、それが…オレの中で憧憬へと変化した。 悠クンは明るい陽射しや眩いライトが似合っていた。 オレと言えば…海の底に届く光でさえも眩しくて。 ステージの上に立つ度に息苦しくなり、光の届かない海の底に戻りたくなった。 けど…ひとりになればさみしくて。 光の中でも、仄暗い海の中でもうまく息が出来ないオレ。 だから…酒や薬に溺れた。 そこから引き揚げてくれたのも・・・悠クンだった。 「奏くんが好きだ。  俺じゃ、あなたの助けにはなれない?」 そう言ってくれた悠クンにオレは…恋をした。 悠クンの「好き」はオレの「好き」とは違うと気づかずに。 それから、オレは何かあれば悠クンに甘えるようになった。 深酒をしては駄々を捏ね悠クンに迎えに来てもらったり、ひとりじゃ眠れないからと悠クンの温かい胸の中に顔を埋めては泣き言を言ってみたり。 悠クンからすれば迷惑でしかない行為のはずなのに「仕方ないなぁ」と笑って、オレの我儘を受け止めてくれる悠クンにオレの恋心は募っていくばかりで。 「抱いて欲しい」 そう告げた時の悠クンの、切なげに歪んだ笑み。 それが何を意味してるのかも考えられない程、この恋に身を焦がしていたオレは温かい筈の悠クンの指先が冷え切ってるのも感じ取れず、悠クンとカラダを重ねた。 平な胸のふたつの粒を指で潰され、舌先で転がされる度に漏れてしまう息。 火照ったオレの肌を滑り落ちて行く悠クンの唇に、ユルユルと勃ち上がってしまう性器を冷えた悠クンの指先が捉え、上下に扱かれれば息だけでなく声まで一緒に漏れて。 オレは与えられる刺激に快感を覚え白濁を吐き出せば、悠クンはそれを指に掬い熱で湿り気を帯びた双丘の窪みに塗りつけ、快感の冷めないオレの熱い内部を冷えた悠クン指先で広げられていき、止めることが出来ない吐息と喘ぎ声の中、気づけば裕クンの熱がオレの内部に埋め込まれていた。 背後から悠クンに突かれる度、唇から吐き出される息は多くなり、だんだんとカラダ中の酸素がなくなって行くのを感じながらも、オレは悠くんに揺さぶられれば揺蕩うシーツの波に溺れ、悠クンから与えられる律動に酔いしれていたのに… 「ごめん」 そう言われた瞬間、オレは息が出来なくなった。 埋め込まれていた悠クンからドクドクと愛の証だともとれる熱を吐き出され、オレの中に悠クンをまだ感じているのに…苦しくて息が出来ない。 悠クン… 「ごめん」って… 何? 「ごめん」 この言葉の後はこうだよね? 「奏くんを愛することはできない。  でも、あなたが望むなら抱いてあげる」 悠クン… オレはそんな安っぽい優しさが欲しいんじゃないんだ。 悠クンに愛されたいんだ。 オレはどこで間違ったんだろう? でも… オレは… 悠クンを苦しめるって分かってても、温かかったはずの悠クンの冷たくなってしまった指先を手放せない。 悠クンの幸せを願うより、自分の幸せを優先させてしまう。 なんてオレは…卑怯なヤツなんだろう。 空っぽになった肺の中がヒューヒューと音をたて、酸素を求めてるのにオレは悠クンから与えられた言葉が、その言葉に続く悠クンの声を聞くのが怖くて、苦しくて、息を吸うことが出来ずゴボゴボと泡を吐き、二人で作ったはずの揺蕩うシーツの波にオレひとりだけ溺れて沈んで行く。 陸に上がっても そこは海の中と変わらなくて 声を失わず2本の足を手に入れても 上手く息が出来ないオレは 出来損ないの人魚にすらなれなかった END

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