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 もし……この恋に名前をつけるなら……何て呼べばいい?  戯れて『好き』とは言えても、本気で『好き』とは言えない。  そんなもどかしい……オレの恋。  大輝くんを釣りに誘った。もちろん、その気がないのか?って訊かれたら……ない!とは言い切れない。うん、ないって言えない。だから……態と前日に泊まらなきゃ間に合わないような時間にした。おまけに誕生日プレゼントには、大輝くんが欲しいって言ってた釣りグッズを……お揃いの耳当て付帽子にしてしまった。  オレってあざとい?きっと……頭の良い大輝くんのことだから何か感づいてるかもしんねぇ。でも……それでいいんだ。大輝くん、変なとこでヘタレだから。オレがこれくらいのことしなきゃ行動に移さないだろうし。大学の食堂でAランチ食べながら  「大輝くん、好きだよ!」  なんて……それとなく?いやいや……オレとしちゃ、かなり大胆に?告白してるつもりなのに……大輝くんときたら  「つかさくんったら、誰にでもそんなこと言ってるでしょ?」  なんて言うし。マジ、大輝くんって鈍感?って思っちまった。……って言うかオレ、誰にでも好きなんて言ってねぇし。けど……好きだよって言った後、妙にデレデレした顔してたから、やっぱ……わかってんだよ……ね?オレの気持ち……。  それでもいざってなると動かねぇし、言葉にもしてくんねぇの。ヘタレに恋したオレが負けなのか?恋に勝ち負けがあるんだとしたら……今のところ、オレは分が悪いかもしんねぇ。オレの恋した相手は……同性だし、鈍感だし、何よりヘタレだし……な。おっと、もうこんな時間だ。  壁掛けの時計に視線を向けると約束した時間の5分前を指してた。オレは慌ててキッチンに立って、帰りに買ってきた寿司やらサラダやらを皿に並べる。教授に言われた書類を整理してオレは先に帰ったけど、大輝くんだけ別にも教授から文献の見直しを頼まれてて……多分、何も食ってねぇだろうから開口一番  「腹減ったぁ~」  大輝くんならそう言うはず。几帳面過ぎて秒単位でスケジュール組んでる大輝くんに限って、絶対……遅れてくることなんてねぇだろうから。ビールも忘れずに……って酒を準備してるとこがやっぱオレ、あざとい?酔わせて……ってオレ、最低かな……?大輝くん、ごめん。けど、オレ……もう……そろそろ限界かもしんねぇ。  キッチンのカウンターに置いたスマホが光り、電子音と共に大輝くん到着を告げていた。 両手に持った皿をテーブルに並べ、オレはスマホを手に取る。  「今、ロック解除すっから……」  電話の主がわかってるからそれだけ言って切り、今頃そわつきながら開かぬ玄関の前で待ってるだろう大輝くんの姿を思い描いて、クスッと笑う。オートロックを解除し、オレはビールようのグラスを出すべきかどうか?酔った勢いを借りるかどうか?ひとり悶々としてたら、ピンポーン……ベルが鳴った。  こうなりゃ、運に任せるか!グダグダ悩むのが苦手なオレはグラスを棚に戻し、玄関に向かった。ガチャリ……ドアを開ければ  「遅くなってごめん!」  待ち合わせ時間ぴったりに来た癖に謝る大輝くん。その顔を見たら……額から汗?え?確かに日中は暖かくなったよ……。けど、朝晩はまだ冷え込む季節なのに汗?ええ??!!あ……もしかして、緊張してんの?そう思うとオレは噴出しちまった。  「え?何?つかさくん??俺、何かした???」  今度は?マークを顔に思いっきり浮かべた大輝くんに、オレの笑いは止まらなくなっちまって……。この後、どうする?とか、運に任せて告る?とか、酔わせて襲う?とか、もうそんなのどうでもよくなっちまって。ああ、オレ……本当に大輝くんが好きなんだなって思った。 鈍感だろうが、ヘタレだろうが……いや、寧ろ……鈍感だから、ヘタレだから好きなんだと思った。だって、足を一歩だけ玄関に入れた大輝くんが、大きなバックを片手に持ったままアタフタして、見開らいた瞳をキョロキョロ動かしてんだぜ? そんで……  「つかさくん、遅れたから?俺が遅れたから笑ってんの?」  なんて的外れなこと言ってる大輝くん。そんな……何時になっても出会った頃のまま、変わらない……純粋で可愛い大輝くんがオレには堪らなく愛しく感じられて……思わず、腕を引っ張っちまった。  大きなバックのせいか、いきなりオレが腕を引っ張ったせいか、わかんねぇけど……バランスを崩した大輝くんが倒れこむようにオレに覆いかぶさって来て。しりもちを着いたオレの目の前にある、柔らかそうな大輝くんの唇に吸い込まれるみてぇに……オレはその大輝くんの唇にキスをした。  ガチャリ……。扉が閉まる音が大輝くんの中にある枷を外したのか、触れ合うだけだったキスが次第に深くなり……気づけば夢中で舌を絡めあうようなキスをしていた。チュッと音を立てて離れた唇。  閉じていた瞼を開くとジッとオレを見つめる大輝くんの瞳が目の前にあって……オレの胸が瞬時にギュッと締め上げられる。何だ、コレ?オレに何が起こってる?  オレのなのか、大輝くんのなのか……わかんねぇ唾液で濡れた大輝くんの唇。 キスをしてたせいか紅く色づいてて。それがオレを煽って。オレの分身が反応を始める。それが覆いかぶさってる大輝くんの腹にあたったのか  「つかさくん……良いの?俺も男だよ?それでも良い?これよりもっと進んでも……」  オレをしっかりと捉えた瞳で見つめられたまま訊かれれば、カァーッと顔に熱がたまって。それが堪らなく恥ずかしくてそっぽを向けば耳元に  「俺も好きなんだ。つかさくんのことが……俺は今、すごくつかさくんが欲しい……」  そう囁かれて、更に顔が熱くなる。けど……オレも大輝くんと想いは同じ。大輝くんが今すぐ欲しい。だから……そっぽを向いたまま  「オレも大輝くんが好きだ。ずっと好きだった……。オレだって今すぐ、大輝くんが欲しい……」  呟けば  「じゃ、一緒だ。つかさくん……ベッドに行こう」  また、耳元に囁かれて、オレはその言葉に頷き導くように大輝くんの手を取った。  そこからは……あんま記憶が……ない。互いに縺れ合うようにベッドにダイブして、引き剥がすように荒々しく服を互いに脱がせて床に捨てて、貪りあうみてぇに求め合って……。女の子とは違って柔らかな感触なんかないオレたちは、筋肉質な体がぶつかり合う……そんな激しいセックス  もちろん、どっちが抱くのか?どっちが抱かれるのか?そんな鬩ぎ合いがあったけど……結局、オレが折れた。だって、大輝くんが  「俺、あなたを感じたい。つかさくんの中で一つになりたい」  なんて……低音の声を更に少し掠れさせてオレの弱い耳元で囁くんだ。時折、吐息を吐きながら。そんな反則技使われたら  「いいよ……」  そう言って限界寸前になってる大輝くん自身を迎え入れるしかねぇじゃん?オレも同じ男だから、大輝くんが挿れたいって気持ち……わかんねぇわけじゃないし。惚れた弱み?きっと、それだろうな……。オレは大輝くんと一つになる痛みも、『好き』って気持ちの方が勝って我慢ができた。それより……好きで、好きでたまんなかった大輝くんと一つになれて、オレはそのことの方が嬉しくって……大輝くんに揺らされてあっけなく絶頂を向かえちまう。 その直ぐ後に大輝くんもオレの中で弾けて……。二人して何度も『好き』って感情を確かめあってたら、何時の間にか夜明け前になっちまってた。  「釣り、如何する?」  大輝くんからの今更な質問にオレは  「ん……腰、痛いから無理……」  答えれば  「ですよ……ね」  なんて言って笑うからオレは一発、大輝くんの頭を叩いてやった。 もし……この恋に名前をつけるなら……何て呼べばいい? 戯れて『好き』とは言えても、本気で『好き』とは言えない。 それは……もしかしたら……この想いが恋ではなく、愛だからかもしんない。

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