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βの親から生まれてきたんだ、オレもβだって・・・普通はそう思うだろ? それがさ・・・中学入学の時に受けた検査で 『あなたはお子さんはΩ性です。  下記の病院を必ず6ヶ月以内に受診して下さい。』 ・・・って、親宛に届いた水色の封筒に入った用紙と、無機質なゴシック体で印字れた定型文みたいなもんだけでさ・・・これからのオレの将来を決められると思う? その手紙を読んだ父ちゃんが「この家も俺の代で終わりか・・・」って溜息吐く横で母ちゃんは「嫁・姑問題に悩まされなくて済むし、聡が玉の輿に乗ってくれたら我が家も安泰だわ!」なんて・・・冗談なのか本気なのかわかんない顔して言ってるし。 姉ちゃんは姉ちゃんで、何かわかんねぇけどとりあえず笑っとけみたいな感じで「聡、おめでと」ってオレの背中をバンバン叩いて笑ってるし。 この話題の主はオレだよ・・・ね? ・・・って言うか・・・何で?オレはΩなの? え?・・・如何いうこと・・・?って思ってたら・・・母ちゃんがぼそりと重大発言をした。 「そう言えば・・・ひいおばあちゃんのお父さんがαだったって聞いたことがあるけど・・・バース性は遺伝でも何代も前にαの血が混ざってるくらいじゃ、バース性が生まれないって習ったような気がするんだけど・・・聡にそれがでるなんて・・・凄いわね!」 とかなんとか・・・また、他人事みたいに言って。 父ちゃんは父ちゃんで「そんな話、聞いてないぞ!」って怒りだすから母ちゃんも「だって、何代前の話よ?それに、ずっとβ家系だったから私がバース性の子を産むなんて誰も思ってなかったわよ!」って怒りだすし・・・当の本人であるオレは半ば取り残されたような状態で・・・なんか、よくわけわかんないまま・・・自分の将来が決められてしまった気がしたけど、まぁ・・・手紙にはΩだって書いてあるんならそうなんだろうし、今んとこ別にΩだからって何か問題とか、困ったこととか何もねぇし・・・まぁ、いっか!って思ってた。 その時は。 父ちゃんも母ちゃんも、姉ちゃんだってβなんだからオレもβだろ?って思ってたから、入学式の時の話も半分居眠りしながら聞いてたんだよな。 Ωが如何に大変のモノを背負って生まれて来てんのか・・・予約を取って母ちゃんと行った病院でにこやかに説明する担当医から突き付けられた瞬間、オレはΩに生まれた事がすげぇ嫌になった。 だって・・・オレ、男なんだぞ? なのに・・・妊娠って・・・なんだよ? それって・・・オレがSEXされる側になるってことだよ・・・な? 男はする側じゃねぇの? オレが読んだ漫画とかじゃ・・・そうだったよ? え・・・ええ~~~っ!! ・・・って、驚いただけだった。 そん時は。 自分でもその事しか頭に入ってこなかったバカなオレを思い出す度に、オレはバカだよ、バカだけど・・・あまりにもバカ過ぎって言うか・・・無知すぎる自分が、そこしか耳に入って来なかった自分がマジで恥ずかしくなる。 まぁ・・・まだ発情期を一度も経験してなかったから、仕方ないっちゃないんだけどさ。 とにかくその日は、まだ発情期が来てないか?とかそんな問診やら、MRIとかって言うヤツで全身検査を受けた後、「毎日、必ず就寝前に忘れず服用して下さい」と言われて青いスケルトンのケースに入ったチュアブル錠の制御剤をもらって帰ってきた。 どうでもいい話なんだけど・・・この薬のパッケージって言うの?プチンって押して出す部分がさ・・・ド派手な色なの。 真っ赤だよ? 凄くねぇ? これって・・・飲み忘れしない為なのかなぁ? 味はリンゴ?・・・そんな感じの味でさ・・・なんかさ・・・寝る前にお菓子食べてる感じがして、オレだけイケナイことしてるみたいで・・・ドキドキしたんだよなぁ。 初めて発情期を体験するまでは。 これはオレも悪かったんだ・・・って言うか、オレが悪かった・・・うん、オレが悪い。 中学最後の夏休みでさ・・・あんま勉強が得意じゃないオレは「流石にこれじゃ拙いだろ?」って父ちゃんと母ちゃんに言われて、高校受験の為に嫌々塾に通わされてて。 普段使わない頭をフルで使ってたせいか、疲れて・・・何日か続けて薬を飲み忘れて。 そしたら、いきなり来たんだよな・・・発情期が。 その日は塾が休みで、昼に母ちゃんが作ってくれたチャーハンを食べた後、そのままリビングでゴロゴロしてたら眠くなってきて・・・そのままソファーの上で昼寝しちゃったんだけど・・・急に体中が熱くなってきてさ。 それでもまだ、睡魔の方が勝ってたオレは「熱いなぁ・・・、母ちゃん、クーラー切って買い物行ったな」とか思いながら、ソファーの上でゴロゴロしてたんだ。 そしたらいきなり、ドクドクって心臓が・・・って言うか全身の脈がすげぇ勢いで打ち出してさ・・・段々とその感じが下半身に集中してきて・・・慌てて目を開いて下腹部をみたら・・・テント張ってんの。 それに加えて尻の穴からなんか変な・・・ヌルヌルしたような感じがするから、もしかして夢精した?って焦ったオレは下着ん中に手突っ込んでみたら・・・前は全然汚れてなくて・・・嘘だろ?とか思いながら恐る恐る引き抜いた手を後ろに突っ込んでみたら・・・粘々したモンで汚れてて。 とりあえず、シャワー・・・シャワー浴びようって思ってソファーから起き上がろうとすんのに、頭はボーっとするし、身体は風呂に浸かって上せた時みたいに熱いのにガタガタと震えだして・・・テントを張った場所が痛いくらい脈打って、腹の中がジンジンと疼いて・・・何が何だかわかんなくなってパニック起こしてるとこに買い物じゃなく、近所に回覧板を持っていってただけの母ちゃんが帰って来て、直ぐにオレの異変に気付いて応急処置で制御剤を飲ませてくれたから。とりあえずはそれで何とか凌げたけど・・・あのまま、5分でも放置されてたら・・・オレはすげぇ醜態を、母ちゃんに見せてたかもしんない。 母ちゃんがタクシーを呼んで病院に連れて行ってくれる途中も、あんまりオレは覚えてないんだけど・・・熱で魘されたみたいに荒い息を吐いて、ずっと股間に手をやってたらしくて、それを隠す為に母ちゃんはカバンをオレの膝上に置いたって言ってた。 そんで「あれほど言われてたのに・・・飲み忘れるなんて・・・全く、あんたって子はどうしようもないわね!」って即効性の制御剤を点滴で打ってもらい、落ち着いたベッドの上のオレにそう言って、「これからは、毎晩母さんがあんたに飲ませるから薬のケース母さんに渡しなさい!」と怒られた上にあの青いスケルトンの薬ケースを取り上げられた。 で・・・オレは懲りればよかったんだ。 そん時の恐ろしいほどの発情期の威力に・・・。 でもさ・・・オレだよ? オレなんだよ・・・? 同じ失敗を繰り返さないわけがなくて。 渋々頑張った受験勉強でなんとか受かった高校。   入学式前夜は浮かれてて・・・その日はたまたま、母ちゃんも忙しくてさ。 「忘れずに飲みなさいよ!」って渡されてた薬を・・・オレは飲み忘れるんだよ。 オレらしいっちゃ、オレらしいんだけど。 それが・・・最悪の結果を生むんだよな。 入学式が終わって、父ちゃんと母ちゃんが待つ正門に行こうとカバンを手に取った時・・・いきなり、発情期がやってきた。 一気に跳ね上がる熱と激しい動悸で机に崩れ落ちるように倒れこんだ所に、群がってきた同じクラスの奴らがオレのフェロモンを嗅いだのか、オレを・・・。 こん時もあんま、覚えてないんだけど・・・遠くで女子の悲鳴が聞こえて・・・担任の先生か・・・な? オレに圧し掛かってる奴等を引き剥がし、保健室に連れて行ってくれたと思う。 そこでまたもや点滴を受ける事になったオレ。 たまにオレみたいなバカがいるらしく、学校の保健室には制御剤の点滴がストックされてるみたいな話を保険医の女の先生が話してくれてたけど(あ、バカは言ってなかったかな?)・・・駆け付けた母ちゃんがすげぇ顔してオレに怒鳴りつけ、父ちゃんはひたすら担任や保険医に頭を下げてた。 けど・・・それだけで話は終わらなくて。 Ω性ってバレた以上、普通に学校生活が送れなくなるんだよな。 ムカつく話だけど。 確かにちゃんと忘れず毎晩、制御剤を飲んでれば発情期はほぼ100%抑えられる。 だからこそ自分から態々「オレはΩです」なんて公表する奴はどこにもいない。 制御剤がなかった頃とか、あってもその効き目が不安定だった頃とかは自分の意志なんか関係なく、発情期とかその時に発してしまうフェロモンのせいで周りにΩだってわかってしまっただろうけど・・・今は違う。 なのに・・・昔から根付いてる「Ωは発情期があるから仕事ができない」ってのがあって。 Ωだってバレれば就職はもちろん、普通に生活するのにも色々と問題がでて・・・生きづらくなるんだよな。 それを・・・バカなオレは身をもって体験した。 その日の内にオレは・・・他の学校に転入することを勧められた。 今どき、何だよ?って感じだけど・・・学校側からすれば、オレがΩだってクラスメイトとかに分かってしまった以上、今後もし・・・虐めとか、その・・・強姦とか・・・事件になったとしても責任を負いかねるから、平野くんがΩだとわからない学校に転入した方が良いって話だった。 その時提示された学校が、家から1時間以上かかる辺鄙な場所の学校で・・・流石にオレは気持ちが萎えて・・・父ちゃんにも母ちゃんにも、ホント悪い事したって思うけど・・・転入じゃなく、退学することにした。 父ちゃんは「俺がお前に婿を探してやるから」って慰めてくれたけど・・・母ちゃんは違った。 中学卒業後の休みに「あんたが受かるわけがない」って言われて受けた某事務所。 オレは何故かその母ちゃんの予想を裏切って受かってて。 その日の夜、薬をオレの部屋まで届けに来て言ってくれたんだよな。 「あんたはあの事務所のオーディションに受かったんだよ?  自信持ちなさい!  Ωだからって何も恥じる事なんてひとつもないんだから・・・。  有名になってみんなを見返してやったら?  Ωだってやれるんだって!  Ωだからってバカにすんなって!  その為にも・・・薬だけは忘れず、ちゃんと飲みなさいよ。」 そう言いながら、グズグズとなくオレの頭を優しく撫でてくれた。 だから、色々あったけど・・・ここまで頑張ってこれた。 あの時の母ちゃんの言葉があったから・・・オレは今、ここに・・・こんな煌びやかな・・・Ωのオレには不釣り合いな世界だけど・・・ちゃんと立っていらてるんだよな。 流石にデビューして、オレがアイドルグループの一員になるとまでは予想してなかったけど。 なのに・・・何でオレは同じ失敗をしてしまうんだろう・・・。 番組で新曲を明日披露するって言うのに、まだ振りを覚えられていない圭クン。 その圭クンに振り移しをしてて・・・躰の異変に気付いた時既に遅しで。 ここ数日、忙し過ぎて・・・昨日はソファーに横になるなり、クッションに吸い込まれるようにして眠ってしまって。 朝からは雑誌のインタビューとか、それこそ分単位で仕事が詰め込まれてて・・・さっき、慌てて飲んだんだよな薬を。 でも・・・やっぱ毎日って言うのが約束なわけだから・・・効かなかったらしい。 圭クンに抱きつかれて、押し倒された瞬間、これは言うしかないって思った。 もし、オレがΩだって告白したとしても圭クンなら・・・絶対他の奴等には言わないだろうって思ったし、今までの付き合いで圭クンとはちゃんと信頼関係を築けてるって信じてたから。 なのに圭クンから返ってきた言葉はこうだった。 「俺・・・αなんだよね」 圭クン家はオレん家とは違って・・・圭クンの父ちゃんも母ちゃんも立派な職業に就いてるし、圭クンだってすげぇ頭のいい大学出てるし・・・もしかしたら?とは思ってたけど・・・事務所の先輩にも何人かαの人がいるのも知ってたけど・・・まさか・・・そんな・・・圭クンがαだなんて・・・。 そして・・・ 「聡くん、俺と番になろうよ」 そう続けて言われた時には・・・オレの胸にビリビリと電撃が走った。 発情期のΩがαに触れられると、そのαに恋してしまうって噂は・・・あながち嘘じゃないのかもしんない。

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