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「如何したの?」
隣でこの場には似つかわしくない音を、手にしたゲーム機から発しながら訊いてくるメンバーの一人である瑞希。
「最近、やけに暗くありません?」
心配してますが、何か?風で訊ねてくる割には、視線はゲームに集中させてる。
「何か・・・嫌なことでもありました?」
オレが答えないからか・・・それとも、ゲームが上手く進まないのか・・・黙ったままのオレに、やたらしつこく訊いてくる。
「あ・・・」
小さく声をあげたかな?と思ったら、ゲームーオーバーらしき音が隣からしてきて、これはマズイって思ったけど・・・瑞希は手にしていたゲーム機の電源を落とすと、今度は意外なと言うか・・・オレが答えたくない相手の名ピンポイントで出して訊いてきた。
「何かあったんでしょ?圭くんと・・・」
「オレの事より、撮影中にゲームすんなよ!」
「別にいいじゃん。
俺の順番、まだ先だし。
・・・で、話を逸らしたい事情でもあんの?」
「う・・・っ」
「やっぱりね・・・。
何?聡くんが露骨に嫌な顔するくらい、圭くんと何かあった。
俺の推測・・・間違ってる?」
「・・・」
「あなたの無言は肯定・・・と。
さて、なら・・・俺に何かできる事はあります?」
「ない・・・けど・・・」
そっからはオレもだんまりを続けられなかった。
Ωだって事はバレないように注意しながらオレは瑞希に、ここ数ヶ月寝る前に圭クンに連絡取らなきゃいけない事、オレがうっかり連絡を忘れようもんなら5分と待たず圭クンから連絡が入る事、なんかスマホにしばられてるみたいで息苦しい事を話す。
オレのたどたどしい言葉の羅列でも、瑞希は想いを拾ってくれるから助かるけど・・・
「つまりは・・・何か弱みを圭くんに握られたってことですね」
サラリと怖い事を言ってくるから瑞希はやっぱ・・・鋭い。
「でも・・・ここ数ヶ月、圭くんはすこぶるご機嫌麗しくって感じだから、嫌なのは・・・聡くんだけってこと?」
これだ。
瑞希は鋭すぎる。
そうなんだよな・・・毎晩、連絡すんのは面倒くせぇ。
面倒くせぇんだけど・・・それだけじゃないって言うか。
オレさ・・・なんとなく、圭クンはαなんじゃないかな?と思ってたって言ったら、今更何だよ?って言われそうで嫌なんだけど・・・Ωの感ってヤツなのかなぁ?
まだ、グループを結成してデビューが決まる前・・・練習生の時によく一緒に仕事してた頃から圭クンばっか目で追ってる自分がいて。
最初はオレにはない、はっきりとした二重のクリッとした大きな瞳とか、オレなんかよりも背がちっこくて女の子?みたいな風貌なのに、話すとちょっとヤンキー?
ヤンキーって死後かもしんねぇけど・・・通ってる学校とか、住んでる場所から考えればいいとこのお坊ちゃんのくせに、態と悪ぶって見せてて。
なんかそんな圭クンが・・・すげぇ可愛くって。
それがさ・・・デビューしたものの仕事が停滞してた時、馬鹿じゃねぇの?ってくらい白くて綺麗だった肌をこんがりじゃねぇか・・・あれは真っ黒っていった方がいいくらい焼いて。
髪もすげぇ短くして茶髪にして。
どこからどう見てもヤンキーそのものの圭クン。
その圭クンの近くにオレがいると・・・どう見てもいじめられっ子が不良にカツアゲされてます!って感じだった。
なのに・・・さり気なく、オレをエスコートしてくれたり、最年長だからって勝手に決められたとは言えリーダーになったものの、皆をまとめたりなんて全く出来ない、番組とか取材で話を振られても碌なコメントさえ返せないオレをサポートしてくれたり・・・そんな圭クンに感じてたんだよな、もしかしてαじゃねぇの?って。
だって・・・圭クンがそんなことしてくれんのってオレにだけだったから。
確かに、グループ内で一番年下の一成の世話?いや・・・お節介的なことは焼いてたけど、それはオレに対するモノとは全く違ってたし、同い歳の瑞希と洋祐とはどっちかって言うと悪ふざけする仲間って言うか・・・冗談とか、傍から見たら何が楽しいのかわかんないような遊び?みたいなのをしてたし。
あ・・・ちょっとオレtと似た感じの、どっか抜けてる洋祐に対してはしかっりしてくれよって感じもあったっけ?
けど、それも・・・オレに対してのそれとはまた違ってて。
如何言えばいい?
如何表現したら上手く伝わんのかなぁ・・・あ!そうだ。
オレを常にリードしてくれるって感じ。
ほら、アメリカの映画とかでよくあるヤツ・・・わかる?
女の子の手を取ってダンスするあれだよ、あれ。
ディズニーのアニメとかでもあるじゃん・・・王子さまがお姫さまをダンスに誘って上手にステップを踏めるようにしてあげるそう・・・あれだよ、あれ!
それを・・・常に気を配ってオレにしてくれてる感じ。
出来ないオレを何時も引っ張ってくれる圭クンにαを感じたし、基本Ωってヤツは守られる存在なのかな?とも思ったし、αだからΩのオレを守ってくれてんじゃねぇ?とか考えたし・・・正直・・・オレだけの圭クンって思っちまう時もあって。
だから・・・こうして、毎晩薬を飲んだかどうか?の確認とは言え、圭クンの声が聞けるのは嬉しかった。
連絡すんのは面倒くせぇんだけど・・・楽しくもあって。
ちょっとウキウキしながら電話をしてる自分が、嫌と言うより・・・怖くもあったんだ。
やっぱ、オレ・・・圭クンに特別な感情を抱いてるんじゃねぇかって。
つまりはその・・・圭クンに恋しちまったんじゃねぇかって。
不安になったんだ。
圭クンはさ、オレとSEXしたいって言ったけど・・・発情したオレのフェロモンを嗅いだせいだと認めてた。
つまりは・・・そのSEXは番になる為のもんであって・・・オレはただ子作りの為の対象として見られたってことだろ?
・・・ってことは、オレ自身に性欲を感じたってわけじゃねぇだろ?
発情したΩが目の前にいて、それがたまたまオレだったてことじゃん?
例えばオレ以外のΩが圭クンの目の前で発情してたら?
圭クンはそのΩとヤッてたのかよ・・・?
そう思うと胸んとこがギュって掴まれたみてぇになんだよ。
どうせΩなんてαにとっちゃそんな存在でしかないんだろ?なら・・・オレは圭クンにとってそんな存在なのかよ?って考えると、胸が痛くなって息ができなくなっちまう。
もうさ・・・自分でもわけわかんねぇ。
オレは圭クンとどうなりてぇんだ?
今まで通り、お姫さまみてぇに王子さまの圭クンにエスコートされて、ずっとリードしてもらって、優しくされていたら満足なのか?
でもさ・・・そんだけじゃ・・・嫌かも。
圭クンともっと深く繋がりてぇって言うか・・・いや、躰でとかじゃなくて・・・こう、もっと強い二人だけの・・・何かが欲しくて。
あ、いや・・・やっぱ・・・躰の繋がりも・・・どっかで期待してんのかも。
圭クンにあんな無様な姿を見せちまってからは、毎晩かけたり、かかってくる電話も手伝ってか制御剤を飲み忘れたことはねぇ。
なのに・・・たまに・・・ツアーとか、ダンスレッスンとか、後・・・そう、TVの収録中かな?
圭クンがつけてる香水には反応しねぇのに・・・圭クンの香り?
えっと汗の・・・匂い・・・?体臭?
なんて表現すれば伝わんだろう?
あ!圭クンの汗に混ざったフェロモン?これが1番しっくりくるかも。
その香りを嗅ぐと・・・ちょっとした発情期みたいな症状が現れるんだよな。
躰が急に熱くなりだして、その・・・オレのソコが勝手に・・・で、腹ん中が疼くって言うか・・・なんか変な感じになんの。
多分・・・多分だけど・・・あの噂って本当なんだと思う。
発情期中のΩがαに触れられたら・・・SEXしなくてもそのαのことが好きになっちまうって言う噂。
・・・って、言い訳するのも苦しいか。
オレ・・・多分・・・こうなる前から圭クンのこと・・・好きだったんだと思う。
メンバーの中でオレにだけ優しくしてくれんのがすげぇ嬉しかったし、オレは圭クンの特別なんだって思うだけでフワフワした気持ちになった。
これって・・・圭クンが好きだってことだろ?
圭クンにあんなこと・・・
『それって、オレの事が好きで言ってんじゃないだろ?
オレが薬飲むの忘れて・・・そのせいでオレが発情して・・・そのフェロモン嗅いだから・・・そのせいで言ってんだろ?』
なんて言っちまったけどさ・・・オレだって・・・・躰に流れるΩの血がどっかでαの血を求めてて、そんで圭クンに頼ったり、甘えたりしてたんじゃねぇの?
いい加減、認めちまえば楽になるんじゃね?
オレは圭クンが好きだって。
こんなことになる前から気になってたって。
でも・・・それを認めて、圭クンと番になるにはまだ・・・大きな不安が一つあんだよな。
圭クンはオレのフェロモンの効力がなくなっても、オレに対してモヤモヤした感情があるとは言ってくれてたけど・・・Ωはさ、一度番になった相手のαしか愛せないんだよ。
αさ・・・そん時、Ωのフェロモンのせいで気まぐれに番になったって嫌になったら番を解除出来っけど、Ωは番を解消されてもそのαしか愛せないんだよ。
オレなんかより、ずっと頭のいい圭クンのことだから、そんなこと・・・オレよりも知ってるはずだろ?
なのに・・・圭クンからオレをどう想ってんのか・・・只でさえ鈍感なオレなんだ・・・ちゃんと言葉にしてくんねぇとわかんねぇし、バカなオレにもちゃんとわかるように話してくんねぇとオレには圭クンが何考えてんのか?どう想ってんのか?全然わかんねぇの!
オレにとっちゃ、一生の問題なんだよ。
簡単に番になんかなれねぇよ。
圭クンと番になりてぇと思ってても・・・なれねぇよ。
バカ・・・圭クンの・・・・
「バカヤロー・・・・」
どうやら最後は声になってたみたいだった。
それを聞いた瑞希は悪戯っ子よろしくな表情でオレに笑みを向けた。
「なかなか口を開かないと思ったら・・・なるほど・・・ね。
つまりは、圭くんの気持ちが聡くんには伝わってないってことですか」
「は?お前、何言ってんの?」
「考え込んだ後にバカヤローとくれば、だいたいそうでしょ?」
「瑞希、何だよ・・・それ」
「オレはさ・・・別にいいと思うんですよ?
このご時世、同性愛だって何だっていいんじゃない?
だいたいさ・・・αとΩのカップルなら同性でなんて当たり前なんだし」
「え?瑞希、お前・・・」
「俺?俺は何も知りませんよ。
誰がαだの、Ωだの・・・俺にとってはどうでもいい話なわけ。
ただね・・・メンバー内で恋愛するんならバレないように仲良くやって欲しい。
それだけですよ。
やっぱ、嫌じゃないですか・・・誰か一人でも困った顔とか苦しそうな顔してるメンバーがいたら。
俺は何時も通り、バカみたいに騒いで笑える仲でいたいだけです。
だから、あなたに訊いたんですよ、何か嫌なことでもあったか?って。
聡くんは如何なの?
圭くんが好きなの?」
多分、瑞希は・・・オレがΩだってことも、圭クンがαだってことも気づいてる。
気づいててオレに訊いてるんだ。
なら・・・
ここで隠したって、はぐらかしたって感の良い瑞希のことだ、絶対違う形でオレから訊きだそうとするだろうし、下手したら圭クンにも訊くかもしんねぇ。
そうなっちまう位なら、今、ここでちゃんとオレの気持ちを伝えるべきだよな?
「オレは・・・圭クンが好きだと思う」
ちゃんと話した方がいい。
「けど・・・圭クンの気持ちはわかんねぇ」
不安な気持ちもちゃんと。
「なるほど・・・圭くんの気持ちはあなたに伝わってないってことですか」
一瞬、耳を疑っちまうような瑞希の言葉にオレは眉間に皺を寄せた。
「あのさ・・・あなたの鈍感さとか、あまりにも周りを見てないとことか・・・それで自分が傷ついてんなら直すべきかも。
最近の圭くん、見ててどう思います?」
瑞希が言ってることはいまいちわかんねぇけど・・・最近の圭クンはなんか・・・楽しそうだ。
前なら愚痴ってただろう仕事でも、オレと一緒だったりすると時間がおしても怒んなくなったし、寧ろニヤニヤって言うか・・・オレのこと見ては嬉しそうにしてたり、ソワソワしたり・・・変だった。
そのことをそのまま瑞希に話すと「それが答えですよ」って返ってきたけどさ・・・やっぱ、オレにはその瑞希の返答もさっぱりで。
また眉間に皺を寄せてたら「今日、時間があれば二人で話せば?」って言ったかと思うと、先に雑誌のグラビアの撮影を終えこっちに向かってきた圭クンを捕まえて「聡くんが圭くんに話があるそうですよ。個室のある店でも予約しといてやって下さい」とだけ言うと?マークを浮かべる圭クンをその場に残し、オレの腕を掴んでカメラの前に向かった。
「オレもね・・・実はΩなんですよね。
あなたが行動に出ないんなら・・・俺が圭くんを奪っちゃいますよ?」
カメラの前で、オレにしか聞こえない小さな声で耳打ちする瑞希はやっぱり悪戯っ子よろしくって感じで笑ってんだけど・・・オレには瑞希が何を考えてんのかさっぱりわかんなかった。
その後、飲み屋でオレが圭クンのことで瑞希にバカやっちまうまでは瑞希の意図がマジでさっぱりわかんなかった。
まぁ、成一と瑞希がそう言う関係・・・つまりは番なんだと聞かされた時は流石にビックリしすぎて開いた口を暫くは塞げなかったけど。
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