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「ごめん、先に帰って美味いもん作って待っててくれる?」
俺と一緒に帰るべく準備を済ませて待っていた成一くんに言えば、思いっきり不機嫌そうな顔で「は?」と一言頂きました。
まぁ、こんなの彼と付き合おうと思ったら日常茶飯事だから、気にも留めてませんけど。
「ちょっとね・・・野暮用が出来てしまって」
「何だよ、それ!
オレより大事なわけ?
ゲーム買いたいなら寄ってやるよ?」
はい、きましたよ。
オレより優先順位が上なのはゲームだけにしとけよ?的な発言。
いや・・・違う?
ゲームは仕方ないからオレと同等にしといてやるぞって感じ?
いやいや・・・成一くん、そこ間違ってますから。
突っ込みそうになるのをグッと堪えて、とりあえず事の経緯を成一くんに話す。
聡くんと圭くんがバース性だって事は一応伏せて。
「聡くんが一人じゃ絶対にヤダ!って言うから・・・俺が話を振った手前もあって・・・ごめんね、成一くん」
「圭くんと聡くんが・・・ね。
なら、仕方ねぇか・・・先に帰ってるから何かあったら呼べよ?」
「わかった。
なるべく、早く切り上げて帰るから・・・」
納得したのか、成一くんは「上手くいくと良いな」とだけ残し、俺に背中を向けた。
俺だってさ・・・明日の夕方まで久しぶりに二人揃ってのOFFだから、成一くんが作ってくれたハンバーグとかシチューとか食べて、一緒にいちゃつきたかったんですけどね・・・はぁ。
溜息しかでませんよって思ってたら、俺より大きな溜息を吐いてる猫背の方が隣にいらっしゃいました。
「ほら、聡くん・・・圭くんが駐車場で待ってるって!」
椅子に座ったまま駄々っ子の如く「ヤダ、行きたくねぇ!」とこの期に及んでまだほざきながら、更に猫背を強調させて項垂れてる聡くん。
その聡くんの脇に両手を差し込んで立ち上がらせたはいいけど・・・それでも聡くんは嫌がるから、腕を掴み一発「いい加減にしなさい!」と叱咤して無理矢理歩かせ、圭くんの待つ駐車場まで向かった。
態々、助手席側に立って待っていてくれた圭くんは、緊張してんのか・・・顔がちょっとひきつってた。
聡くんを助手席に促すようにドアを開いてくれたのに、それを無視して後部席に座った俺の隣に聡くんが来るもんだから・・・圭くんの顔は更にひきつって。
この先・・・こんなので会話とか出来んの?と思った。
その予感は・・・見事的中。
「ゆっくり話すなら俺ん家の方がよくねぇ?」そう提案する圭くんにまで、聡くんは完全無視を決め込んで。
バックミラー越しに無視された圭くんの視線が、何故か俺に突き刺さってくるもんだから、それが痛くて・・・。
「それでいいですよね、聡くん?」ってとりあえずこの場を取り繕う為に俺が二人の間に入ってたものの、気まずい事この上ない車中の空気は悪くなる一方で。
こうなりゃ、自暴自棄だ!とばかりに圭くんや聡くんに会話を振ってみるも虚しく・・・全て撃沈してしまったので、俺も聡くんと同じく口を閉じ、窓の外を流れる景色を眺めて目的地である圭くんの家に着くのを待つ事にした。
・・・で、その後どうなったかと言うと、滅茶苦茶掻い摘んで話せば上手くいきました!なんですが・・・そこまで到達するのに凄い時間と労力を要しまして・・・はい、つまりは俺の時間と労力です。
ホント、この二人は如何したいの?って感じだった。
先ずは乱雑に本やら洋服やら・・・圭くんの私物が所狭しと広がる部屋に座る場所を確保する所から始まって、「汚ねぇ」だの「掃除しろ」だの煩く言う聡くんを黙らせ、「急だったから仕方ねぇだろ!」って怒りだす圭くんを宥め、やっと本題に入れたかと思ったら30分近くだんまりの二人。
それに痺れを切らした俺は、仕方なく俺と成一くんの関係を話す羽目になるし・・・。
「あのさ・・・別にαだから、Ωだからってそこばっか気にするの止めにしたらどうです?
俺も成一くんも互いにβ同士の親から生まれたバース性だからさ、第二次成長期の検査を受けるまでαとかΩとか全くわかってなくて、あんまり番とかそう言う概念がなかった。
それに・・・互いにいちいちバース性ですって告白しあったわけでもない。
俺と成一くんの関係って、最初は所謂同性愛ってヤツだったよ?
俺、ずっと制御剤飲んでるから発情期とか経験したことなかったしね。
だから・・・惹かれあったのだって俺がΩで成一くんがαだからってわけじゃなかった。
成一くんの前でヒートしたのだって付き合いだして、番になる為にってそん時一回限りだし・・・」
「えっ?」
俺の言葉に二人して同時に驚くし・・・。
「え?もしかして二人とも・・・Ωは初めての相手と問答無用で番になるとでも思ってんの?」
今度は二人して口開けたまま頷てるし・・・。
「あのさ、それは発情してるΩがαと初めて性交したらってことだろ!」
これには二人してキョトンとした顔になるし・・・。
「学校で習ったのが全てじゃないの!
聡くんだって、ちゃんと専門病院に受診した時に聞かされたはずだよ?
ヒート中に交わったαがΩの項を噛み、Ωの血を体内に入れ込んでからΩの中に射精して番になりますって。
圭くんだって、親とか先輩のαに教えてもらってないの?」
はい、次は二人してブンブン音が鳴ってるんじゃない?ってくらいに頭を横に振ってるし・・・。
聡くんはまぁ・・・いいとしよう。
流石にαの圭くんは・・・駄目でしょ、それじゃ!!
「二人とも・・・よくそれで番になるとか、ならないとか悩んでられたね。
俺なんかさ・・・歯型が残るから、成一くんの事がどんなに好きで、互いに想い合ってても制御剤飲み続けて・・・長期の休みが取れる日まで番になるの待ったし・・・晴れて番になれた!って思っても、妊娠したら拙いからって直ぐにシャワーで洗浄したり・・・とにかく大変だったわけ!
だいたい、今時・・・ませたガキなら検査前にヤッてる奴等もいるって。
それでいちいち番だのってなってたら、自分がΩとかαとか知らない内に番になってて、検査も薬も必要ないじゃん。
なんで第二成長期に検査をするか・・・意味わかってる?
番にはヒートが関係してくるからだろ?
圭くん、頭いいはずなのに・・・なんでそう言うとこは抜けてんのかなぁ・・・。
聡くんも聡くんだよ!
自分の躰のことくらいはさ、ちゃんと理解しとこうよ!」
これには流石に反省したのか、二人ともバツ悪そうな顔して俺を見て来るから止めを刺してやった。
そりゃ、そうだろ?
こんな・・・俺と成一くんの秘め事まで言わされたんだから、爆弾落として、二人の気持ちを白状させてやる!
「だからさ・・・番になるにはそれなりの手順とかあるの!
そもそも、制御剤をちゃんと服用してたら聡くんは発情しないし、発情しなけりゃ番になりようがないの!わかった?」
二人が頷くのを確認して仕上げに取り掛かる。
「で、どうなの?二人は如何したいの?如何なりたいの?」
俺のこの爆弾に口を開いたのは意外にも・・・聡くんだった。
「オレは・・・圭クンがはっきりしてくんねぇから・・・」
「え?俺、言ったよね?
聡くんが番になってもいいって思うまで待つって!」
「それじゃ・・・わかんねぇだろ?」
「何が?何がわかんねぇの?」
「わかんねぇもんは、わかんねぇの!」
「は?俺だって聡くんの気持ちがわかんねぇよ!」
せっかく、普段あんまり自分の気持ちとか口に出さない聡くんが頑張ってんのに・・・駄目だ、こりゃ。
聡くんがと思ってたけど、圭くんも・・・かなりの鈍感ヤローだ。
圭くん・・・本当にαなのか?
なら・・・もう一発、お見舞いしてやろうじゃないか。
「さっき、俺が話したことちゃんと聞いてました?
二人とも番になる事にやたらと拘ってるみたいだけど、それじゃ・・・ずっと前には進めないんじゃない?
聡くんも圭くんも・・・互いにバース性だって気づき合ったのは何時?」
「俺は生まれた時から自分がαだって事は知ってたけど、聡くんがΩだって事は聡くんが薬を飲み忘れて、俺の前で発情するまで知らなかった」
「聡くんは?」
「俺は瑞希と同じ。
第二成長期の検査でΩだって言われて・・・けど・・・」
「けど?」
「圭クンがαかな?って言うのはなんとなく気づいてた」
この聡くんの告白には圭くんも驚いたらしく、「え?嘘・・・何時?何時気づいたの?」って煩く聡くんに詰め寄って。
「デビューしてから・・・オレ、圭クンに『俺等の中で一番年上だから』ってリーダーにされちまったけど・・・何も出来てねぇじゃん?
最初はさ・・・リーダーにさせちまったから悪いと思って助けてくれてんのかなぁと・・・思ってた。
けど・・・オレのことずっとその・・・リードって言うの?してくれてんのがわかって・・・で、なんとなく・・・圭クンはαかなぁって・・・。
で・・・オレ・・・なんか、それがすげぇ嬉しくって・・・オレだけの圭クン?・・・そう思っちまったり・・・。
だから・・・番になんの・・・すげぇ怖くて。
圭クンはオレがΩだから・・・その・・・子作り?・・・その為だけに必要なのかなぁとか・・・Ωじゃないオレだったら圭クンは・・・オレなんか抱きたくねぇのかなぁとか・・・そう考えると・・・すげぇ不安で。
好きなのはオレだけなのかなぁ・・・って・・・すげぇ不安で・・・」
あのせっかちな圭くんがボソボソと喋る聡くんの言葉を急かすでもなく、ずっと聡くんを見つめて話しを聞いてて。
聡くんの言葉一つ一つに、圭くんの表情がだんだんと和らいで行く。
それを俺は見逃さず、成一くんと彼が作ってくれてるハンバーグやシチューが待つ彼ん家に帰る為、これが最後だ!とガツンとこの鈍感ヤロー二人組に言ってやる。
「圭くん・・・聡くんは圭くんが好きなんですよ。
好きだけど・・・好きだからこそ、Ωの聡くんにとっては番って繋がりでしかないって言うのは怖いんです。
圭くんだって知ってるでしょ?
αからは番を解消できても、Ωは一度番になった相手としか無理なんです。
圭くんが聡くんを好きで抱きたいのか?Ωだから抱きたいのか?って圭くんが考えてるよりもっと・・・聡くんにとっては重要なことなんですよ。
圭くんはどうなんです?
今ので聡くんの気持ちはわかりましたよね?
それでもまだ、番って形に拘ります?
そんなの・・・後からでもいいじゃないですか?
先ずはちゃんと互いの気持ちに向き合ってみてからじゃ駄目なんですか?
少しでも好意があるならとりあえず付き合ってみて、番になるかどうかはそれからゆっくり考えたらいい話でしょ?
発情してない聡くんを・・・Ωのフェロモンを感じなくたって、聡くんを抱きたいって思えたなら・・・バース性とか、男だとか女だとか関係なく、どんな聡くんだって大切にしたいって思えたなら・・・きっとそれは・・・本物の恋だろうから。
それに・・・グループだってこれからの事を考えれば、今はまだ番になったって、公表する事はもちろん、家庭を作るなんて・・・到底無理な話だしね」
これでどうだ!
よし、言ってたやったぞ!
自分達の問題だけじゃないって出せば、頭のいい圭くんだ。
きっと、番って事には拘らなくなるはずだし・・・何より、さっき・・・たどたどしく話す聡くんを見つめる圭くんの表情は・・・あれは・・・圭くんも聡くんが好きでたまらないって感じだった。
うん・・・二人なら・・・大丈夫。
まぁ・・・鈍感ヤロー達だから、また何かはあるだろうけど・・・その時はその時で。
きっとこの先は俺はお邪魔な存在になるだろうから・・・とっとと帰りましょうか。
俺を待つ成一くんの・・・成一くんが俺を待つ場所に。
ただ・・・このままでは帰りませんよ。
なんてたって俺は瑞希ですからね。
俺は「後は二人でなんとかして」とだけ言うと立ち上がり、リビングのドアを閉める前に俺と成一くんの時間を奪った二人にジャブを喰らわしてやった。
「けど・・・明日は夕方から撮影あるからね。
わかってると思うけど・・・首とか見えるとこにキスマークは厳禁ですから!」
言い逃げだからその後・・・二人がどんな顔になったかは知らないけど・・・きっと茹で蛸よろしくみたいに顔が真っ赤に・・・聡くんに至っては耳・・・いや、首まで真っ赤になってたであろう事は、見なくてもわかるけどね。
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