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瑞希が余計な一言を残して帰ったせいで、部屋が一気にピンクに染まった。 染まったんだけど・・・それで、直ぐにどうにかなるような二人でもなくて。 だって、聡クンと俺だよ? 成一ならさ、きっと・・・これ幸いとばかりにムード作った後、ごり押しでキスして、そこからSEXまで持って行けるんだろうけど・・・残念ながら、俺にはその器量も度量もねぇよ。 無理に決まってんじゃん・・・首まで真っ赤にして俯いてる聡くんをさ・・・簡単に抱いたり出来ねぇよ。 まぁ、多分・・・それもわかってて・・・あ、それだけじゃねぇな・・・半分は俺達のくだらねぇ問題に付き合わされてその仕返しも兼ねて・・・瑞希は言ったんだろうけど。 まさか瑞希と成一が・・・ね。 俺だってそうだから、これについては何も言えた立場じゃねぇけど・・・二人がバース性で、ましてや番だったなんて・・・流石に考えた事もなかった。 一体、何時からだよ? ・・・って、そんな事・・・俺が詮索するのは不躾な話だよな。 メンバーと言っても、プライベートまで口を突っ込むのはルール違反だ。 そう・・・ルール違反・・・って、じゃ・・・さっきのは? ・・・ここまで考えて、一旦頭ん中を白紙にしてみようと思った。 瑞希だって何も好き好んで、俺達の問題に首を突っ込んだんじゃない。 寧ろ、瑞希に気を遣わせてしまった俺達の方が悪い。 さっき、瑞希は言ってたよな・・・ 『先ずはちゃんと互いの気持ちに向き合ってみてからじゃ駄目なんですか?』 その通りだ。 俺は聡くんがΩだって知った時、俺以外のヤローに聡くんを取られたくねぇ!その想いばっかが先走って。 なら・・・番になるしかねぇよな!って勝手に決め込んでた。 けど・・・そもそも、なんでそんな気持ちになったか?だよな。 俺はαだからか?って思ってここ数ヶ月、悩んだ。 でも・・・俺が無理矢理、連絡を取らせるようになってからは、忘れず制御剤を飲んでた聡くん。 だから、絶対に発情はしてないはずなのに・・・時々、俺以外の奴等と楽しそうにしてんのを目にすると、なんかこう・・・モヤモヤするって言うか。 酷い時なんか、メンバーと談笑してるだけでイラついたり。 これって・・・所謂、恋ってヤツか?なんて考えると・・・やっぱ俺はαとしてだけじゃなく、聡クンが好きなのか?とも思えたり。 でも、明確な答えが俺の中に出てこなくて。 あの日・・・聡くんが俺の前で発情した日。 毎日、俺に連絡するように強要した電話で・・・チラッとだけ俺の気持ちを話したけど・・・それ以降は、俺の気持ちを聡クンには話してなかった。 俺がαだからΩの聡くんを欲してるのか?って悩ん出る事や、発情してない聡くんに対してもモヤモヤすんのは恋なのか?って思って考え込んでしまうとか・・・って、言うか、そもそも如何して聡くんが俺の気持ちに拘んのか?、俺が聡くんを好きか?嫌いか?にそこまで拘んのか?訊いてない。 つまりは・・・俺の考えや想いを俺は聡くんに何一つ告げず、聡くんにも俺をどう想ってんのか?何一つ訊かず・・・番になる事だけを聡くんに強要してたって事だよな。 そりゃ・・・聡くんじゃなくても、嫌になるよな。 もし、俺がΩだったら? こんな一方的なαと番になんかなりたくねぇよ。 俺・・・この数ヶ月、何やってたんだ? バカじゃねぇの、俺。 俺さ・・・生まれた時点で親が勝手に決めた・・・話だってろくにした事もねぇ・・・何が好きなのか?とか、どんな考えを持ってんのか?何一つわかんねぇα性の女の子と20歳になったら結婚しろなんて・・・ふざけんな!って訳で、親には秘密裡にオーディションに申し込んだったんだよな。 忘れてた。 俺だって強引に番にされんのが嫌で、この世界に入って来たんだった。 俺は俺の自由にするって。 最初はそう思ってたんだけど・・・こうゆう世界の奴等と考え方が違う俺はなんか・・・場に馴染めないって言うか・・・何処でどう仕入れてきたのか知んねぇけど、俺をαだと知ったβの奴等から「αならここじゃなく、もっとお前に合った世界があるだろ?」的なやっかみとかもあって・・・なんか、俺・・・浮いてる?ってなって。 そうなると俺の悪い癖で、どんどん意固地になって・・・孤立して行った。 正直、それが嫌になって辞めようと思った時・・・聡くんに会ったんだよな。 そん時の俺はまだ聡くんよりも背がちっこくて「女のこみたい」だとか「可愛い」だとか散々、聡くんから言われてさ。 俺からすれば八重歯を覗かせて笑う聡くんの方が、断然可愛いと思ってた。 ダンスだってそうだ。 αのくせになかなか振り覚えらんねぇ俺に対して、一度見ただけでサラリと踊ってしまう聡くんはすげぇって思ってたけど、それでも納得いかないのか・・・遅くまで鏡の前でステップを確認してる聡くんの姿を見かけると胸がギュっとなったっけ。 誰も何も求めていないのに・・・否、寧ろ「振りが覚えられない奴は成宮の後で踊れ」なんて振付師から言われる程の聡くんなのに、もっと高みを目指して誰もいなくなったレッスン室で一人、何度も同じ曲を繰り返し・・・納得が行くまで絶対にスッテプを踏む足を止めない聡くんが・・・純粋にすげぇと思ったし、この世界と学校と二足の草鞋を履いてた俺は・・・どっかで甘えてんだって聡くんが教えてくれた。 もちろん、そんな聡くんを妬んで陰で噂する奴等もいて。 妬むくれぇなら、お前らも自己練すればいいだろ!って言ってやればいいのに、謂れない中傷受けてもグッと歯を食いしばり、それでも自分の姿勢を曲げず踊り続ける聡くんを俺は・・・いじらしいとも思ったっけ。 何時だったかな? もう10年近く前の事だから何が原因だったとか、その辺りは曖昧だけど・・・口下手な聡くんだったから、言い返すとかそう言うのはホント苦手みてぇでさ。 先輩になんか言われたんだろうけど・・・何も言い返せず、そいつらが帰った後、ひとりで踊りながら泣いてるのを見た時、その涙を拭って「聡くんはひとりじゃねぇよ、俺がいるから!」って抱きしめたいって思った。 それと同時に、聡くんは俺が守ってやる!とも思った。 その感情が何処から湧いてくんのか・・・自分でもよくわかんなかったけど。 だから、メンバーになって一緒にデビューするって決まった時はマジで嬉しかったんだよな。 ああ、これでずっと俺の目の届く場所に聡くんがいる。 これなら俺が聡くんを守ってやれる!ってな。 ああ・・・そうだった。 俺・・・聡くんが昔から気になってたんだ。 聡くんがΩだって知るずっと前から・・・好きだったんだ。 なんだ・・・そっか。 そうだったんだ。 今まで脳みそと心がチグハグで悩んでたけど、六面体のパズルの色と面が揃った時みてぇに思考と感情も同じ向きになっちまえば・・・難しくしてたのは自分の発想や思い込みで、答えはこんなにも簡単で単純だったんだと知る。 そしたら無性に自分の間抜けさに笑えてきて・・・。 「ククッ・・・アハハ・・・・!」 吹き出してしまったら、聡くんが驚いて俯いてた顔を上げた。 その聡くんの・・・突然笑い出した俺に戸惑ったみてぇな・・・俺がおかしくなったんじゃないか?と心配するみてぇな表情が、すげぇ愛しくて。 「俺、聡くんが好きだ。  今、気づいたんだけど・・・俺、ずっと前から聡くんの事が好きだった」 何の衒いもなく、俺はストレートに聡くんに想いを告げていた。 「圭クン、何だよ・・・急にビックリすんだろ!」 そう怒ったフリを見せながらも俺の言葉に聡くんは照れたのか、また俯こうとするから、赤く染め膨らんだ頬を俺の手で包み込み、もう一度「聡くんが好きだ」と告げて聡くんの唇にキスを落とした。 唇と唇が触れるだけのキス。 その唇も聡くんから直ぐに離され「圭クンはズルい」と離された唇から抗議されたけど、俺はその抗議さえも愛しく感じて。 俺ん中の感情を認めてしまえば、マジでお前はバカか!って突っ込んでやりたくなるくれぇに俺は・・・聡くんに溺れてた。 Ωの聡くんではなく、成宮 聡に恋して、溺れてる自分に気づいた。 そしたら・・・もう、番がとかどうでもよくなって。 フェロモンなんてなくても十分、聡くんは魅力的で。 αだとかΩだとか・・・もう頭ん中にはなくて。 ただ、ただ・・・聡くんの熱をこの躰に感じたい。 俺のこの熱を聡くんに受け入れて欲しくて。 もう一度、聡くんにキスを落とした後、今の想いをストレートに言葉にした。 「俺とSEXしてくれる?  Ωの聡くんとしてじゃなくて、成宮 聡として俺とSEXして欲しい。  俺・・・すげぇ、今・・・聡くんが欲しい。  好きなんだ・・・聡くんが俺の事、もし好きでいてくれるんなら・・・成宮 聡を俺、桑田 圭に下さい」 俺の言葉に照れくさそうに視線を下に落とし、微笑んでくれた聡くんにはデビュー前に矯正してしまってあの可愛かった八重歯はもう覗いてないけど・・・肯定ともとれる笑みを俺に向けてくれる聡くんのその笑顔は、今までに1番可愛いと思った。

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