8 / 15

8

聡くんの薄っすらと開かれ唇から漏れる吐息が、俺の愛撫に応え喘ぎに変わる。 チラチラと覗く赤い舌は俺を誘ってるみてぇで、それに吸い付けば聡くんも俺の舌に吸い付いてくれて。 互いの唾液を交換するみてぇな深いキスを、幾度も角度を変えて交わす。 しなやかな筋肉を俺に見せつけるように伸ばされた四肢は、俺が聡くんを揺さぶる度に俺の躰に絡められて。 時折、背中に走るピリッとした痛みも俺の熱を高め、更に激しく聡くんを求め、もっと奥へ・・・もっと聡くんの中へと痛いほど張詰めたソレで突いてしまう。 「んん・・・ぁぁああっ!そこ・・・ヤダ・・・ああっ・・あ!」 吐息に混じって拒否られても、聡くんを求める衝動は躰の奥から駆り立てられるみてぇな熱の塊となって、止める事なんてもう・・・できるわけねぇじゃん。 ずっと俺は聡くんを求めてたんだから。 聡くんだってそうだろ? 躰も心も・・・すべてが最高に感じるSEXは・・・否、何もかもが、一つに交わって溶けてしまいそうな、こんなにも満たされた気分になったSEXは初めてだ。 聡くんに言われなくても、項を噛んでしまいたくて仕方がねぇ。 けど・・・明日は撮影がある。 どんな衣装を着せられるかなんてわかんねぇ。 何より、さっき瑞希が言った言葉が心に残ってて。 やっぱ・・・番になるならケジメをつけてからだ。 色んな事柄に。 番になるって事は、生涯の伴侶を得るって事だろ? 俺がαなんだから、Ωの聡くんを一生涯命を懸けて守り抜き、家族が出来たら養っていけるだけの力もなくっちゃ、駄目だ。 それに・・・先ずは聡くんのご両親にも挨拶に言ってからだよな。 ・・・って、これは流石に胸張って言えねぇけど。 婚前行為をしてしまったけど・・・誠意ある行動だけはきちんとしないと。 思い立ったら吉日だ。 互いに熱を吐き出し余韻に浸る中で、俺の腰に脚を絡めて物欲しげに腰を揺らせる聡くんに 「こんなことした後でなんだけど・・・聡くんのご両親に挨拶してぇんだけど・・・いい?」 訊けば 「圭クン・・・ってマジ、ムードねぇのな」 ちょっと不貞腐れたみてぇだったけど 「それだけ・・・本気に考えてくれてるってことだよな?  圭クン・・・ありがと」 そう言ってくれて。 「でも・・・その話はもう1回してからでいい?」 なんて、まだ熱に魘されたみてぇな潤んだ瞳で可愛くおねだりされたら、俺はNOと言えるはずもなく、そのままドロドロになるまで二人して朝まで溶け合った。 その後? へっぴり腰で歩く聡くんを支えてスタジオまで行き、「圭クン、いてぇ!」と言われれば腰をマッサージする俺を見る瑞希と一成の視線が俺の背中に痛いほど突き刺さったのは言うまでもなく、それでもニヤニヤと笑ってしまう俺に二人が呆れたような眼差しを向けてたけど、「いてぇよ」と言う割には嬉しそうに笑顔を見せる聡くんがいて。 俺はそれだけで幸せな気分になれた。 そして撮影後、瑞希達とも相談し合って、事務所や関係者に話す前に大切な仲間である洋祐にこの事を一番に話そうと一成の部屋で酒を飲む事にした。 最初は理由も何も告げられずに一成の自宅に連れて行かれる事が不安なのか、洋祐は「何?何かあったの?」って、マネが運転する車の中で五月蠅くして瑞希に口を塞がれてたけど、部屋に着き俺達が揃って「今まで、黙っててごめん」と謝れば一瞬、あの何時も見せる洋祐のスマイルが消えて。 けど、俺達がバース性だったって事や番の事を話せば、今度は泣き出したかと思うと「そっか、良かったね!うん、良かった!」って、なんかよくわかんねぇ感じになって俺達の肩をあの馬鹿力で何度もバンバン叩き、「俺は味方だし、応援するからっ!大丈夫だからね?」とか言って泣きながら何時もの洋祐スマイルを見せてくれた。 こうなると俺達は強い。 今まで築いてきた絆は半端なくて。 皆でサポートしながら互いの愛を育んで。 時々、洋祐が「俺もαだったらなぁ・・・瑞希を絶対成一に渡さなかったのに」なんて冗談にしても恐ろしい事を言っては、笑みを浮かべながらも目は決して笑ってない成一を瑞希が宥めるのを見て3人で爆笑したり。 「俺がΩなら圭が狙いかな?」とかも言うもんだから、すげぇ心配そうな顔してソワソワしだす聡くんが可愛くってニヤけてたら、瑞希は洋祐を「このバカ!」と叱りつけ、聡くんを安心させようとハグした一成を俺は慌てて聡くんから剥がしたり。 洋祐もわかってやってるんだと思う。 俺達が遠慮しないでいいように、こうして時々茶化して俺は気にしてないよ?って事を教えてくれてるんだ。 それがわかるから、皆で洋祐の冗談にのっかってバカみてぇに笑えるんだよな。 マジ・・・この5人がメンバーで良かったと心からそう思う。 この5人じゃなきゃ、今回の事も含め、色んな壁を乗り越えられなかったじゃねぇかな。 瑞希や一成が俺達の背中を押してくれて、洋祐は全てを優しく受け止めてくれたからこそ、聡くんと俺はカップルになれた。 俺にとってこのグループは・・・マジで最高の5人組で一生大切にしたい宝物だ。 ・・・と、ここまでは上手く話は進んだんだけど、今・・・俺の前に最大の壁が立ちはだかっている。 それは・・・聡くんのお父さんだ。 あの日・・・聡くんと俺が初めて結ばれた日。 約束したんだよな。 互いの両親にも認めてもらってから番になろうって。 で、洋祐に話をしてから、先ず俺に両親に許可を取りに行ったんだ。 そしたらさ・・・こっちが拍子抜けする程、あっさり了承をもらえて。 ガチガチに緊張してた聡くんも思わず「へ?」って顔になったくらいで。 「お前が決めた相手だ。  大切にしなさい。  ただ、お前ももう社会人だ。  事務所や仕事関係の方々に迷惑だけはかけないこと」 そう俺に注意した後に 「こんな馬鹿息子で、迷惑をかけてしまう事も多いかとお思いますが、宜しくお願いします」 ・・・と、親父もお袋も聡くんに頭を下げてくれた。 それから、皆で食事しながら俺の小さい頃の話やアルバムを見たりして和やかな時間を過ごして帰ってきたんだ。 だから、聡くんのご両親も大丈夫!ってどっから来た自信なのかわかんねぇけど、あんま身構えずに・・・って言うか、俺の場合、緊張し過ぎると却って裏目に出ることが多いから、なるべくリラックスして挨拶に行こう!ってなったんだよな。 それがあからさまに態度に出て、却って失敗だったのか?と後から後悔もしてみたけど・・・どうやらそうではなく「姉ちゃんがカレシを連れて来た時もそうだったから、気にすんな」と聡くんは教えてくれた。 つまりは・・・手塩に掛けて育ててきた娘を取られたくない父親心って奴らしい。 「聡くんと番にならせて下さい」 そう頭を下げた俺に 「アイドルみたいなこの先どうなるかわからん事をやってる奴に、我が家の大切な息子の聡はやれん!」 そう一蹴されて追い出された。 一度目は。 二度目は・・・門前払いだった。 三度目? 三度目は居留守を使われた。 玄関先で聡くんのお母さんが申し訳なさそうに頭を下げる姿の足元には紳士物の靴があって・・・その情景が暫くの間、頭から離れなかった。 俺・・・そんなに信用されてねぇんだって。 そう思うとすげぇ情けなくなって。 聡くんは「親父の言う事なんか気にすんな!」とか「親父は昔から頭がかてぇから」って俺を慰めてくれるけど、やっぱ・・・男としてのプライドはズタズタで。 流石に俺も暫くは凹んだ。 そう、暫くは凹んだんだけど・・・こうなりゃ絶対、聡くんのお父さんに認めてもらわねぇと!って思いがムクムクと湧き出して。 確かに、聡くんのお父さんが言われた事も一理ある。 俺だってもし娘が出来て、その娘が紹介したのがアイドルだったら・・・やっぱちょっと考えるもんな。 今はいいだろうけど・・・将来は? ちゃんと娘を食わして行けんのか?って心配になる。 自分がやってる事を否定すんのは嫌だけど・・・確かに流行り廃りの激しい世界だ。 こんな事、考えたくもねぇけど・・・旬が過ぎれば後は落ちて行くだけの世界。 なら・・・如何したらいい? アイドル以外に何か・・・俺だけにしか出来ない何かを仕事に持てば? 例えアイドル生命が尽きたとしても、聡くんをちゃんと食わせて行けるだけの何かを・・・俺はみつけなければ。 俺はアイドルとして仕事をこなしながら、将来について模索し始めた。 聡くんと俺の未来の為に。 そして見つけたのが・・・ニュースキャスターだった。 初めは事務所も含め、あまりにも畑違いの場にアイドルである俺が参入する事を否定的に取られる事も多かった。 「アイドルなんだから笑って歌って踊っておけ!」 報道関係者からすれば、それが本音だろう。 でも・・・俺には守らなきゃいけねぇ人がいる。 そんな言葉や態度に負けてなんかいらんねぇ。 俺はそれまで明るくしていた髪も黒く染め、チャラけたイメージも封印し、与えてもらえる報道の仕事に向かって我武者羅に食いつき、寝る時間も惜しんで世界の情勢を一早くキャッチし、可能ならば問題になっている場所に自ら足を運び、見聞きした事を発信した。 それが・・・聡くんのお父さんに認められる唯一の手段だと信じて。 なのに・・・聡くんは違っていたみたいだ。 キャスターの仕事を始めてから2年。 やっとこの仕事にも慣れ、自分の時間も上手く調整が取れるようになって来た頃、俺は聡くんの異変に気付いた。 この2年はマジで半端ねぇくらい、忙しかった。 休みだって殆どなくて。 けど・・・忙しさに感けて聡くんを蔑ろにした事は無かった。 会えなくてもメールや電話は細目にして、少しでも聡くんの寂しさを取り除こうと努力もしていた。 もちろん、グループでの仕事で会う時は出来るだけ聡くんとスキンシップを取るようにもしていた。 無理矢理にでも時間を作って愛し合う事だって忘れなかった。 聡くんにとっては不十分だったかもしんねぇけど。 でも・・・仕方がなかった。 あれが俺の精一杯だったんだ。 俺と付き合いだしてからの聡くんはソロのコンサートも開き、舞台の座長もこなし、今年に入ってからは以前から暇を見つければ描いていた作品の個展を開き、主演のドラマも決まった。 短髪だった聡くんが役柄の為、髪を伸ばし前髪が聡くんの瞳に影を作るとその色香は凄くて。 心配はしてたんだ・・・変な虫がつかねぇか?って。 けど・・・番になろうって約束を信じて疑ってなかった俺は、色香を放つ聡くんを目にしては、俺が聡くんをこんなに魅力的にしたんだって思ってた。 俺の愛の力だって・・・思いあがってたんだよな。 マジ・・・俺って能天気でバカだわ。 そんな俺に聡くんは 「圭クンが悪いんだ・・・」 俺以外のヤツとキスしてる姿を見せつけながらそう言うけど・・・ 聡くん、俺はあなたの為に走り続けて・・・今だって、走り続けてるんだ。 それは・・・聡くんと番になりてぇから。 聡くんのお父さんに認めてもらいてぇから。 なのに・・・如何して? 聡くん・・・会えなくて寂しいのは自分だけだと思ってんの? 俺だって・・・会えない寂しさは同じだよ。 寧ろ、聡くん以上だ。 アイドルとして仕事をこなした上、自分が決めた事とは言え目の前に山積みにされた資料や原稿。 到底、24時間で足りない程の仕事量。 それでも、なんとか遣り繰りして。 日付も変わり、仮眠程度の眠りに就く前・・・聡くんをこの腕に抱きしめられたらって何度思った事か・・・。 けど・・・その言葉をちゃんと聡くんに伝えるべきだったんだね。 俺は・・・聡くんがΩだって事を忘れてた。 Ωは・・・誰かが傍にいないと駄目だって事を。 俺は忘れてた。 最近は絵を描いたり、フィギアとかも作り出したり・・・俺がいなくってもそれらの作業に熱中して楽しそうにしてたから、聡くんは独りでも平気なんだって決めつけて。 俺が全部、悪いんだ。 そう・・・俺が。 でも・・・聡くん、頭ではそう思えても、心がついていけねぇよ。 俺・・・何の為に走り続けてんだろう・・・。 俺以外のヤツとキスする聡くんを目の前にして、俺の胸は苛立ちよりも虚しさで埋め尽くされた。 俺はグループが10周年を無事に迎えられたら・・・番になろうって心に決めていたから。

ともだちにシェアしよう!