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圭クンは真面目過ぎる。
マジで。
オレがどんなに父ちゃんの事は気にすんなって言っても聞いてくんねぇで、ひとりで悩んで焦って動いて。
グループから離れた場所で仕事を始めた。
報道番組で記事を読む圭クンの姿を見る度、オレなんかじゃ手の届かない場所に圭クンが行っちまったみたいで。
淋しかった。
そりゃ・・・最初は嬉しかったよ。
普段は見れないスーツにネクタイを締めたカッコイイ圭クンを見れんのが。
録画したのを何度も再生しては、オレの為に頑張ってくれてるんだよなって思って、嬉しくて泣いたりもした。
でも・・・それも半年もすれば淋しさに変わって。
もし、圭クンがこの仕事を引き受けてなかったら、今、オレの隣には圭クンがいて、オレのこと抱きしめてくれてたんじゃねぇのかな?って考えちまうと、TVに映る触れることの出来ねぇ圭クンになんかムカついて。
αの圭クンにはこう言う世界の方が向いてんだろうな?とか、もしキャスターの仕事の方が良くなったらグループから抜けちまうのかな?とか・・・余計なことばっかが頭ん中をグルグル回りだしたら止まんなくなっちまうから、フィギアを作って見たり、絵を描いてみたりして気を紛らわすんだけど・・・やっぱダメで。
オレ・・・こんなに弱かったっけ?
昔から群れんのは苦手で。
事務所の先輩やメンバーにだって、誘われてものらりくらりとかわしてサッサと家に帰るヤツだったのに。
ひとりが好きって言うか、ひとりでも平気なヤツだって自負してたんだけどな。
圭クンと付き合うようになってオレは・・・圭クンがいねぇとダメになっちまった。
出来るんなら、毎日だって圭クンの顔が見てぇし、圭クンに抱きしめられたい。
そんで、もっと・・・SEXしてぇ。
薬は忘れず飲んでるから発情はしてねぇのに、圭クンを求めちまうんだ。
何て言えば上手く伝わんのかなぁ?
躰の熱をどうにかしたいとか、快楽を得たいとか、そんなんじゃねぇんだよ。
圭クンに触れられて、抱きしめられて・・・SEXしたら心が満たされるって言うか・・・安心すんだよな。
オレは圭クンのモノで、圭クンはオレだけを愛してくれてるって。
すげぇ、我儘だと思う。
それは自分でもわかってんだ。
オレの為に圭クンは必死に頑張ってくれてんだってことは。
だから・・・オレも我慢しなきゃってことも。
全部・・・わかってんだ。
わかってんだけど・・・このどうしようもない淋しさは圭クン以外じゃ埋めらんねぇだよ。
でも、そんなこと・・・圭クンには言えなくて。
オレん中に淋しさだけがどんどん溜まって行き、それが爆発したのは初めて主演をもらったドラマの撮影が半ばを過ぎた頃だった。
デビューして間もない頃、ドラマの脇役は経験したこともあるし、主役は二時間枠のオムニバス形式の単発物だった。
ファンや関係者の人には申し訳ねぇが若気の至りってヤツで軽いノリでこなせた。
けど・・・今回は違う。
かなり自分を追い込むような役作りも必要だったし、12話分の撮影ってなると拘束時間は半端ねぇし、番宣やら何やらでドラマの撮影以外でもその役を求められて。
オレの性格も災いしてんだと思うけど、一度スイッチが入っちまうとその役にのめり込んじまって・・・そうなっちまうと、もう・・・自分ともらった役の境目がわかんなくなってきちまって。
正直・・・気が狂いそうになった。
オレは誰なんだ?って。
有難てぇことに、この役でオレのファンになってくれた人が増えた分、オレ自身じゃなく、オレにその役を投影して好きになってくれてる人が大半で。
このドラマがヒットすればする程、オレはオレでなく、その役の人物としてのオレを要求されてんだろうなってことが痛ぇくらい身に感じて・・・怖くて仕方なかった。
オレはオレに戻れんのか?って。
もしかして、この撮影が終わってもオレはその役として求められ続けるんじゃねぇのか?って思うと・・・撮影中なのに何度もその場から逃げ出したくなった。
そんな不安定な時だからこそ、圭クンに傍にいてもらいたかった。
圭クンに触れられて、抱かれて・・・SEXして、愛を確かめ合って・・・オレを・・・成宮 聡としてのオレを圭クンは必要としてくれてんだって・・・感じたかったんだ。
誰でもない・・・圭クンに。
ううん、圭クンだけで良かった。
ファンやその他大勢の人がオレをドラマの中の人物として求めたとしても、圭クンがオレを成宮 聡として求めてくれれば、オレは安心出来たんだ。
オレはオレなんだって。
だから・・・オレは身勝手だってわかってて行動に出た。
もう・・・耐えられなかったんだ。
せめて圭クンと番になって成宮 聡としてのオレを心のどっかにちゃんと存在させておきたかったんだ。
そうしなけりゃオレは・・・壊れてしまいそうだったから。
他の出演者の撮影を集中して撮る日があった。
社会人としては最低だと思う。
もし、オレがΩだと周囲に知られていたら「やっぱりΩはこれだからな」と揶揄されてたとも思う。
それでもオレはその日、1日だけ休みをもらった。
そうでもしなけりゃ、制御剤を飲むのを止めれなかったから。
たった1日だ・・・それで発情するなんて・・・確率的にはしねぇ方が上回ってる。
いくらバカなオレでも・・・そんなこと、わかってる。
これは・・・賭けだ。
この賭けに勝てば・・・オレはオレでいられる。
そう思って薬を飲まず、ソファに横になった。
最近・・・オレを信用してくれてんのか?ドラマの撮影に入った俺を気遣ってくれてんのか?それとも・・・ただ圭クンが忙しくて電話にも出れねぇのか?わかんねぇけど・・・薬を飲んだか?って確認はオレから圭クンにメールをするだけになってて。
それにも淋しさを感じてたオレは・・・態と今夜は連絡を入れなかった。
そうすればきっと・・・忙しいくせに、オレのスケジュールをオレ以上に把握してる圭クンから、時間を見計らって連絡が来るはずだ。
その時にこう言えばいい。
「薬は飲んでない」って。
で、さっき電話で頼んだかっちゃんに来てもらう。
かっちゃんは唯一、オレがΩだって知ってる幼稚園からの親友だ。
実家の隣に住んでて、幼稚園から中学校まで一緒だった親友でもあるかっちゃんにだけは、オレがΩだってことも、圭クンと付き合ってることも話してあって。
かっちゃんはオレの頼みに一瞬、躊躇ったけど「仕方ねぇな・・・今回だけだからな」って引き受けてくれた。
オレは親友さえも巻き込んで何やってんだろ・・・。
でも、かっちゃんが言ってくれたんだよな。
「お前がお前でなくなったら、オレも嫌だし、困る」って。
それだけじゃない。
「Ωってだけでも生き辛ぇのに、お前はよく頑張ってるよ。
そんなお前を助けてやれんなら一世一代の大芝居を打ってやるから、絶対に幸せになれよ」って。
オレなんかにはもったいねぇ・・・親友のかっちゃん。
オレ、今・・・すげぇ最低なヤツになっちまってる。
でも・・・これしか、オレがオレでいられる自信がなくて。
オレも・・・ギリギリのとこまで来てたんだ。
朝・・・7時過ぎに着信を知らせる音で目覚める。
誰からか?なんて考える必要なんてない。
圭クンからに決まってっから。
固まった躰を伸ばすように欠伸をし、テーブルに置いといたスマホを手に取る。
通話と表示されてる文字をスワイプして耳に当てれば圭クンの声。
「今日、休みもらったんだって?
具合でも悪いの?」
流石、圭クン・・・もうオレの今日の予定を知ってる。
「昨日はメール無かったけど・・・薬、ちゃんと飲んだ?」
ほら・・・きた。
オレの躰の心配なのは・・・フリだけかよ?
「飲んでない」って言えば直ぐに「えっ?」って驚く圭クンの声に続いて「休みもらったからって・・・駄目だろ?今すぐ、薬飲んで」って。
・・・何だよ!結局、それかよ!
圭クンにとってオレは・・・何なんだよ?
そんなにオレが発情すんのが怖ぇえんなら・・・さっさとオレを圭クンの番にしちまえばいいだろ?
父ちゃんが言った言葉なんか気にせずにさ!
「飲まねぇ・・・オレ、圭クン以外のヤツと番になる」
半ばヤケクソで圭クンに言えば「今すぐ、聡くん家に行くから」って言ったかと思うと直ぐに電話は切られて、プツリとした電子音がオレの耳に聞こえてきた後、圭クンの声は聞こえなくなった。
今日は圭クンもOFFだってこと知ってて、親友のかっちゃんまで巻き込んで、こんな行動に出たオレは・・・本当に最低で嫌なヤツだと思う。
そう思っても・・・もう、この賭けから手は引けない。
かっちゃんには8時に家に来てくれるように頼んである。
かっちゃんは苦笑いしながら言ってたけど・・・オレだって一世一代の大博打だ。
負けたら?
オレはオレでなくなるだけだ。
そうなった時は・・・屍として生きていく。
その覚悟は・・・出来てる。
オレはソファーに寝転がったまま、ぼんやりと壁に掛けてある時計の針が動くのを見て、その時を待つ。
言葉通り、圭クンは20分足らずでやって来た。
電話を切った後、直ぐに車を走らせてきたんだろう。
ガチャリと玄関の開く音がして、オレは眺めていた時計の針からリビングのドアに視線を向けると、足音と共に圭クンの姿がドア越しに見えた。
手にオレが渡した合鍵を持ったまま、圭クンはリビングに入って来て
「聡くん、さっきのは如何言う意味だよ!」
怒ってんのか?嘆いてんのか?わかんねぇ面してオレに言葉を投げかける。
だから言ってやったんだ「言葉通りだ」って。
そしたら、オレが寝そべってるソファーまで足早にやってきた圭クンはオレを見下ろすと
「そんなの・・・許さねぇ」
なんて言うから
「オレ・・・父ちゃんの言うことなんか気にすんなって言ったよな?
そんなの気にせず、番になろうって何度も圭クンに言ったよな?
なのに・・・圭クンはオレを拒否したじゃねぇか。
結局、圭クンはオレが大事なんじゃなくて、周りに認めてもらうことの方が意味があんだろ?
それなら、オレじゃなくてもいいんじゃねぇの?」
オレは圭クンを捲し立てて煽れば
「それは、違う!
聡くんと番になるなら、皆に祝福されたいって思って・・・」
この期に及んで建前ばっか並べる圭クン。
オレはその圭クンの言葉を遮る。
「うんざりなんだよ!
そう言う俺はαですって感じの圭クンの良い子ちゃんぶったとことかさ・・・いらねぇって。
オレと圭クンの問題だろ?
周りがどうこう言おうが、オレと圭クンが幸せならいいんじゃねぇの?
誰かに祝ってもらえなきゃ、オレ達は幸せになれねぇのかよ?
そんな周りに左右されちまうような番なら・・・オレは圭クンと番になんかならねぇ!
オレが傍にいてくれたらそれでいいって言ってくれるヤツと番になる。
番でもなんでもねぇ圭クンに、文句言われる筋合いなんかねぇよ!」
そう、オレが圭クンに怒鳴った時・・・タイミングを見計らったようにかっちゃんがオレのスマホを鳴らす。
オレは「今、開けるから」とだけ言って通話を切ると、圭クンを撥ね退け、玄関に向かい、かっちゃんを連れてリビングに戻ってきた。
「圭クンが悪いんだ・・・」
そう言ってかっちゃんにキスをした。
かっちゃんが硬直すんのがわかった。
けど、かっちゃんは約束通り、芝居を打ってキスをしたオレを抱きしめてくれた。
それを黙って突っ立ったまま見てる圭クンに、心底頭に来たオレは
「全部、圭クンが悪いんだ・・・淋しかった・・・すげぇ淋しかった。
こんな淋しい想いをするくれぇなら、コイツと番になる。
コイツならオレのことわかってくれてるし、圭クンと違ってオレが望めば傍にいてくれるから!」
半分、泣きそうな声になって捲くし立てたら・・・やっと圭クンがオレの元に駆け寄ってきてオレとかっちゃんを引き離すと
「聡くんを誰にも渡すつもりはねぇから!」
すげぇ形相でかっちゃんに言い放ち
「俺の身勝手さから、聡くんに淋しい想いをさせちまってたんなら、謝る。
ごめん、聡くん。
けど・・・淋しかったのは聡くんだけじゃねぇよ。
俺だって・・・淋しかった。
聡くんはどう思ってんのかわかんねぇけど、聡くんと番になれんのは俺しかいねぇって思ってるし、本音言えば俺だって・・・今すぐにでも聡くんと番になりてぇよ。
聡くんを俺だけのモノにしちまいたいし、オレだけのモノだって思ってる。
今更、俺以外の奴と番になるって言われても受け入れるつもりなんてねぇよ!」
そうオレに言うと、かっちゃんに見せつけるようにオレの項を噛んだ。
噛まれたって言っても、痕が残らないほどの優しいモノだったけど。
なのに・・・噛まれた場所からはピリピリと電撃が走って。
もしかしたら・・・発情したのかもしんねぇ。
圭クンはかっちゃんに背を向けるようにオレを抱きしめてたから、オレはかっちゃんに眼で合図を送ると「良かったな」ってかっちゃんは唇を動かした後、部屋を出て行ってくれた。
そんなかっちゃんの背中にオレは「ごめん」と心ん中で呟く。
それを知ってか知らずか圭クンが
「こんな事は・・・これが最後にしてくんねぇ?
俺・・・聡くんが思ってる程、強くねぇの。
聡くんに淋しい想いをさせてたんなら、マジでごめん。
でも・・・ご両親が大切に育ててきた聡くんを俺がもらうんだ。
コイツなら聡くんを任せられるって思ってもらいたかった。
けど・・・もういい。
俺以外の誰かに聡くんが取られちまうくれぇなら、俺が聡くんを今すぐもらう。
聡くん、俺と番になろう」
腕の中のオレに・・・漸く圭くんは本音をぶつけてくた。
ドクドクと苦しいくれぇ脈を打つ心臓。
一気に跳ね上がる体温。
躰中の熱がソコに集まり、噛まれた項と腹ん中がジクジクと疼いて。
熱で潤む眼を圭クンに向ければ「先ずは消毒させて」ってオレの耳元に圭クンは囁くと、そう囁いた唇がオレの唇に落ちてきた。
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