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聡くんの悲痛な叫びを耳にして、やっと自分が何をしてきたのか思い知らされた。
聡くんの為だと言いながら、結局俺は・・・聡くんを悲しみの淵に追いやり、苦しめていただけだった。
「皆に祝福してもらう為」を大義名分に掲げ、俺は・・・自分を守っていたんだよな。
ホントは・・・怖かったんだ。
周りに認めてもらえねぇ事が。
認めてもらえねぇ事で、しなくていい苦労や嫌な想いを聡くんにさせたくなかった・・・否、違う・・・俺がしたくなかったんだ。
マジ・・・俺って肝の小せぇヤローだよな。
周りがどうか?じゃねぇんだよ。
聡くんと俺がどうか?なんだよ。
聡くん・・・ごめん。
俺、聡くんを傷つけねぇと、こんな簡単な事も気づけねぇなんて・・・マジで俺は最低なヤローだ。
周りが泣こうが、喚こうが、罵声を浴びせようが・・・どうだっていい。
聡くんを悲しませない事が・・・聡くんを笑顔にする事が俺にとっての一番なんだよな。
聡くん・・・今まで、ごめん。
腕の中で震える聡くんに想いが伝わるようにギュッと抱きしめる。
聡くんの体温が一気に上がったのを感じて、もしかして発情した?とは思ったけど・・・もう、何の迷いも俺には無かった。
なのに・・・俺以外の奴の唇に触れた聡くんの唇が・・・否、そんな事までさせてしまった俺にムカついて。
聡くんの心を傷つけて汚しちまった俺が「先ずは消毒させて」なんて、何言ってんだか。
自分で自分が嫌になるけど・・・そんな俺の情けねぇとこも聡くんになら見せれてしまうんだから・・・不思議だ。
俺を見つめる聡くんの瞳は熱で潤み、フワリとあの香りが漂ってきた。
あの時嗅いだ、あのレッスン室で嗅いだ・・・聡くんのフェロモンの香り。
その香りが抱きしめた聡くんの体温と比例するみてぇに強くなって。
制御剤でずっと抑えていた発情が暴走してしまったのかもしんねぇ。
自惚れなのかもしんねぇけど・・・それ程、聡くんは俺と番になりてぇって思ってくれてたのか?
だとしたら・・・俺はその想いに応えたい。
そう思うのに・・・クソ真面目な俺が顔をだして。
聡くんはまだ、ドラマのクランクアップを迎えていない。
今、ここで番になれば色んな問題が壁となって、俺達の前に立ちはだかってくるよな・・・。
差し迫って考えなきゃならねぇのは・・・明日の聡くんのドラマの撮影だ。
項に噛痕をつけたら・・・流石にバレてしまうだろう。
けど・・・番になるんなら甘噛みじゃ済まねえし・・・。
さっきは見せつける為だけの甘噛みだったから、噛痕は残ってねぇけど。
如何する?
如何すればいい?
・・・と、此処で俺の思考は完全にフリーズする。
更に色濃くなった聡くんから放たれるフェロモンの香りを間近で嗅いだ俺の思考は・・・全部、目の前で発情してる聡くんを奪う事だけに持って行かれて。
「もう、いい加減にしろ!」とでも言いたげに、聡くんから香るフェロモンは俺の脳を麻痺させ、俺の中に眠っていたαの熱を一気に跳ね上げさせた。
こうなってしまえばもう・・・畏まった思考なんて物は用無しで。
理性?
そんなもんは脳の片隅に追いやられ、今となっては俺ん中ではちっぽけな存在でしかなくなって・・・Ωのフェロモンに誘われるがまま、ただの獣と化したαの俺はその熱に突き動かされるように聡くんをその場に押し倒す。
ベッドに連れて行くのも、服を脱がせるのも・・・何もかもがもどかしく、此処が床の上だって事も忘れ、聡くんの服を剥ぎ取っていく。
小さなボタンを外すのも焦れったくて、強引に手を進めれば何個かボタンが床の上に飛んだが、その荒々しい行為も聡くんの熱を煽る要因になったのか、聡くんから俺の首に腕を巻き付けてくると引き寄せられ、噛みつくようなキスをされた。
早急に俺の熱を感じたいのか、割入れられた聡くんの舌が俺の舌を絡め取り吸い付いてきただけで、まだ触れもしてねぇのにジーンズの中の俺の性器は勝手に勃ち上がって、ジンジンと痛みすら感じる程に熱を持ち爆ぜそうになる。
聡くんとはこれまでに何度もキスをしたし、SEXだって数えきれねぇ程やった。
なのに・・・キスだけでこんなになってしまうなんてのは初めてで。
発情したΩに求められるってだけで、αは躰中の熱をΩの中に注ぎ込みたい衝動に駆られてしまう。
聡くんから香るフェロモンが俺を誘惑し、早く、早くと声にならない叫びを放ちながらαの熱を求めて俺の躰に纏わりつく。
俺は求められるまま、ギンギンになった性器を取り出すとまだ何の準備もしてねぇ聡くんの中に突っ込んでしまいたくなって。
何時もなら、絶対そんな事はしねぇ。
聡くんを傷つけたくねぇから。
聡くんの躰を労わるようなSEXしかした事がねぇのに。
こんな床の上に押し倒して、熱に魘されたみてぇに聡くんの中に突っ込むなんて・・・絶対したくねぇのに。
今の俺には1ミリの余裕すらねぇ。
組み敷いていた聡くんをうつ伏せにすると、腰を持ち上げ猛った俺の性器で聡くんを貫く。
「んんっ・・・あ、あぁぁ、や・・・っ」
聡くんからは拒むような声が発せられたけど、中はジットリと濡れていて。
無理矢理突っ込んだのに、雁が引っかかる事もなく易々と俺を飲みこんで。
「はぁ・・あっ、圭・・クン・・・もっと・・・奥・・・に来て・・・んっ」
求められるまま最奥を突けばもう・・・聡くんからは喘ぎ声しか聞こえてこなくなった。
「ああぁ・・・んぁ・・・っ・・・あんっ・・・あぁぁ」
繋がった部分からΩがヒートの時だけ出す分泌液が溢れ出て、聡くんが感じてるのが前を見なくってもわかった。
「あ、あぁぁ・・・もっ、と・・・はぁ・・・やっ・・・あああ!」
聡くんも俺の動きに合わせて腰を動かすから溢れ出た粘液が泡立って。
聡くんが突っ込まれてる性器をもっと奥へ誘うように腰を打ち付けて来る度に出るグチュグチュと厭らしい水音。
それに興奮を覚えた俺は激しくインサートを繰り返せば、今度は肌と肌がぶつかり合う乾いた音が混ざって。
聡くんはフェロモンで嗅覚から俺を誘い、艶めかしく揺れる肢体で視覚を惑わせ、何時もより少し高めのトーンの喘ぎ声で聴覚を攻めてくる。
きっと・・・次は味覚だ。
だって、もう俺・・・聡くんの項に噛付きたくて仕方ねぇから。
俺はその欲求に素直に従う。
グッと最奥を突き、そのまま倒れ込むようにして聡くんの背に躰を密着させると、俺は聡くんの項に噛付き歯を立てた。
「・・・っ!」
痛みからから、声にならない声を上げた聡くんがピクピクと痙攣を起こしたが、俺は噛付く事を止められず、聡くんから流れる血を狂った獣のみてぇに貪ぼった。
「んっ・・・嬉しい・・・やっと・・・オ、レ・・・圭クン・・と、番になれ・・・あぁっ!」
聡くんに最後まで言葉を紡がせてあげられなかった。
直ぐそこまで限界が来てたから。
聡くんのΩの血を味わった俺はαの熱を聡くんの中に注ぐべく、項に噛付きながら更に激しく聡くんの躰を揺さぶって、俺の全てを聡くんに捧げるようにして最奥でαの熱を爆ぜると同時に、聡くんもビクビクと躰を跳ねさせ、床に透明の精液を吐き出した。
これまで感じた事のねぇ恍惚感に、暫く放心状態に陥った俺は聡くんの背中を抱きしめたまま動けずにいたら、聡くんが「ごめん」と呟いた。
上手く回らない頭で、聡くんが一体何に謝ってんのか考えてみるんだけど・・・全くわかんねぇ。
それがすげぇもどかしいのに、俺の思考は全く働かない。
なのに、聡くんの中にまだ挿れたまんまのソレがまたムクムクと熱を持ち始めて。
聡くんの「ごめん」の意味を考える事も出来ねぇまま、その熱に持って行かれた俺の躰は聡くんを求めてユラユラと腰を動かし、それから何度も・・・もう、何回ヤッたのかも分かんねぇくらい、俺の精液が透明になってもまだ聡くんを求め続け、明け方近くまで聡くんの躰をこの腕の中から放す事が出来なかった。
PiPiPi・・・・
耳障りなアラーム音。
その音の元を消そうと手を伸ばす。
手に触れたのは俺のスマホじゃなくて。
まだ鳴りやまない音に若干の鬱陶しさを感じながらも、少しずつ覚醒していく。
ぼんやりと瞼を開ければ、そこに広がるのは見慣れない景色で。
ああ・・・そう言えば昨日、俺は聡くんと・・・と思い出しながら欠伸をすれば、右手にあった筈の重みが消えていてはたと気付く。
腕に抱きしめて眠っていた筈の聡くんの姿が消えている。
俺は慌てて起き上がり、煩くなる目覚まし時計を止めれば隣に置かれていた手紙が目に入った。
その手紙を手に取ると、聡くんの書いた綺麗な文字が並んでいて。
『圭クン、ごめん。
オレの我儘に突き合わせちまって。
圭クンが起きるまで待ってやれなくってごめん。
ドラマの撮影行ってくる。
噛痕・・・オレの衣装、スーツばっかだし、自分で着替えるからバレねぇと思う。
あのさ・・・圭クン、オレこんなヤツだよ?
圭クンの気持ちより、自分の気持ちを優先させちまうような・・・最低なヤツなんだ。
こんなオレなんか、圭クンには不釣り合いだよ。
だから・・・今度、オレに会った時、圭クンから番を解消してくれる?
圭クンから解消してくれねぇんだったら、オレから解消する。
圭クンが眠っちまってから制御剤打った。
中も・・・ちゃんと洗浄したから多分・・・大丈夫だと思う。
もし・・・それでもオレん中に圭クンとの子が宿っちまったら・・・そん時はオレ一人で産んで育てるし、グループからも外れる。
責任は全部オレひとりでとるから・・・こんなオレなんか綺麗さっぱり忘れちまって、圭クンは圭クンに似合う人を探せよ。
じゃ、この話はこれで終わりな。
今まで付き合わせてごめんな・・・圭クン、ありがと』
何だよ、コレ・・・。
また、勝手なことばっか書いて。
番になっても聡くんはちっとも・・・俺の気持ちわかってねぇんだな。
番はαの俺からしか解消できねぇっつうの。
俺に何でも勝手にひとりで決めんな!とか言っといて、何・・・自分だけ勝手にこの先の事、決めてんだよ。
馬鹿じゃねぇの。
あ・・・馬鹿は俺か。
あの時・・・ちゃんと聡くんからの言葉の意味も考えず熱に浮かされて、躰の繋がりだけを求めた俺が馬鹿だった。
聡くんは繊細で、傷つきやすい人だってまた、忘れて。
俺はマジで馬鹿だ。
そう思ったけど、もう・・・何もかも遅くて。
聡くんの気持ちは・・・どんなに俺の想いを伝えても頑なで変わる事はなかった。
なら・・・せめてこれ以上聡くんを苦しめないようにと、俺は聡くんが望むまま番を解消した。
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