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 わかりやすい反応をしてしまったとあせっても、もう遅い。案の定、先生はニヤニヤと『してやったり』の笑みを返すから、じわじわと顔に熱がこみあげてくる。 「な、なんで……っ」 「なんで、って……アンタのスケブ守屋ばっかりじゃない。サルでもわかるよ」  ほらっ、と。先生は俺のクロッキー画を広げてみせた。  10分程度で描きあげて、動きのあるものを素早く捉える練習のそれ。集中して描くデッサンの息抜きにとやっていたものだけど、そこに何が描き写されているのかなんて、わざわざ見せられなくてもわかっている。  だって俺は去年の夏からずっと、クロッキーもスケッチも“それ”しか描いていない。美術室の窓から見える水泳部しか――守屋しか、描いていないんだから。 「ち、ちがいます! 俺は守屋をすきっ……とか、ほんとそんなんじゃっ」 「アタシ、すきとか言ってないけど」 「ゆっ……誘導尋問だ!」  真っ赤になって吠える俺は、先生のイタズラ心を十分に満たしたらしい。満足げに何度かうなずかれた。 「うんうん、守屋って騒ぐタイプじゃないしデカくて体格いいからちょっとコワイけど。まあキレイな顔してるよね。男前っていうか、辻元好きそうだわー」 「か、勝手に決めないでくださいよッ!」 「え、じゃあ嫌い? 年下に興味ない? 全然アンタの美的センスにハマらない?」 「えっ、や、そんなことは……っ」  否定しきらないことに先生はニヤつきを深くするから、俺はさらに顔が熱くなった。  ――残念ながら、言われたことは事実以外のなんでもない。  高めの身長と均整のとれた筋肉。手足の長い、しなやかな身体つき。たしかにあまり表情がなくてこわそうに見えるけど、“端整”という言葉がよく似合う顔立ち。硬派な印象は、どことなくギリシア彫刻に雰囲気が近い。守屋はまさしく、俺のモチーフの好みそのものだった。

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