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「夏休みの期間だけだが、今日から3年の辻元が入寮するんでよろしくな。美大受験をめざして追い込みだそうだから、おまえら邪魔すんなよ」
談話室で寮監がそう言いおわった途端、集まっていた部員たちは歓声をあげて迎えてくれた。
お菓子や飲み物を用意してくれていて、ちょっとした歓迎会がはじまる、だけじゃなく。
はじまった瞬間に周りをぐるりと囲まれて、飲み物の酌と質問攻めの嵐に巻きこまれた。
「油絵って売れんの?」「美大って倍率どのくらい?」とかのよくある質問から「彼女はいるんですか?」「兄弟はいますか?」とかの個人的なことも含めて。とにかく根掘り葉掘りきかれる、話しかけられる。
なんで美術部のおまえが? なんて、不満をぶつけてくるやつも不服そうな顔をするやつも、誰一人いなかった。
むしろ、興味津々のお祭り騒ぎ。
あきらかに異分子な俺に対して、どうしてこんなにフレンドリーなんだ……
うっすらこわくなるけど、体育会系ってこんなものかも、と納得することにした。というか、流れに逆らうのはもう疲れた。想定外が多すぎる!
なんていうのは、心の中で叫ぶことにして。
好意……なのか好奇心旺盛なのか、をムダにしないように。なるべくにこやかに、あたりさわりなく質問に答えながら。
俺はこっそり……守屋を探した。
不本意な展開だけど、幸か不幸か一つ屋根の下になれたんだ。窓からながめているだけだった、ひたすら描き写すだけだった顔を近くで見たい。
あわよくば、言葉を交わして、ほんのすこしだけでも仲良くなれたら……なんてちょっと期待して。
期待するわりに、望みが低いとは自分でも思う。でも「すき」なんて――そんな本当のことは、言えるわけがないし。
受け入れてもらえるわけも、たぶん……おそらく、ないし。だから伝えるつもりもないから、仲良くなれたらもうそれだけでいいじゃないか。
それでも、はやくなる心臓をなだめつつ、チラチラと談話室の中に姿を探してはみた。
だけど結局、どこにも守屋を見つけることはできなかった。
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