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さっきの歓迎会に出てない2年って、静かで頼りになるやつって……待って待って、ちょっと待って。
当たってほしくない予想というか答えに、胃が痛くなるだけじゃなく、めまいまでしてくる。
そんな俺の体調不良にはまったく気づかず、目的の部屋まで来た蓮池は、コンコンとその部屋のドアをたたいた。
「2年で、ウチのエース。見たことないか? “守屋 誓”ってやつ」
ノックからすこしの間を置いて、180センチある蓮池よりまたさらに長身の男が、ひらいた扉の先に現れた。
短い黒髪に、目尻の鋭い切れ長の目。無表情に近いのに、凛とした顔立ち。
何枚も描いた、会いたいと願った……俺の、あこがれの――
「も、りや……せいっ!」
フルネームで呼びかけたまま、俺は絶句した。
それを守屋は黙って一瞥して、俺じゃなくて隣の蓮池に向かってボソッと問いかける。
「……誰ですか?」
「誰ですか? じゃないだろ……辻元だよ、“辻元 真尋”、美術部の。今日から入寮するって言ったろ……てか、いままで寝てたなおまえ」
「……そうでしたっけ?」
「そうだよ、はやく思い出せ。部屋は片してあるのか?」
「……それは、問題ないです」
そんな会話が聞こえてはいるけど、俺はまばたきすらできずに硬直したままだった。
だって、こんなに都合のいいことがあるだろうか。偶然にしてはデキすぎている。想定外も想定外だ……――いや、これは偶然じゃない。
彼女は、先生は、はじめから知っていたんだ。俺と守屋が相部屋になることを。わかっていて『合宿』なんて持ち掛けたんだ……ッ!
「じゃ仲良くやれよ。辻元ちょっとコミュ障だけど、よろしくな」
「……わかりました」
「――えッ! あっ……蓮池!」
あわてて呼びとめたけど、蓮池はひらりと手を振っただけで。そのまま廊下の奥へと去っていった。
残されたのは、あたりまえだけど俺と守屋のふたりきり。
――ふたりきり。
うれしいけど、よろこべるわけがない!
「……辻元先輩」
「っな!……なんだよっ!?」
守屋の口から自分の名前が出たことにびっくりして、心臓といっしょに体までビクついた。
ふいに呼ばないでほしい……
声だけで顔が赤くなってくる。
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