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 しかもイヤな感じに返しちゃったし、初対面なのにこれじゃ印象悪すぎる……  そう感じたのは守屋もおなじらしく、一瞬だけ眉を寄せた。でもすぐにその整った顔は、無表情に戻る。 「いや……いつまでそこ立ってるつもりですか。部屋入ったらどうです?」 「え、あっ……ごめん」  素直にあやまると思わなかったのか、また守屋は眉を寄せた。なんだコイツ、といわんばかりの怪訝な顔で。 「……あなた本当にコミュ障なんですね」  あきれの一歩手前な声に、正直ちょっと泣きそうになった。でもなんとか耐える。  こんなことでショックを受けていたら、夏休みがおわる前に俺の命が先に尽きてしまう。  コミュ力を上げよう。そうしよう。せめてビクつかないでふつうに話せるようになろう……  整った顔で無表情にながめてくる守屋から目を逸らしつつ、そう決意して。  守屋との、相部屋生活がはじまった――  でも2週間を過ぎても、一向に俺のコミュ力があがる気配はなかった。  気配どころか、コミュ力があるのかどうかすら疑わしくなってきた。 「アンタ、何回俺を閉め出すんですか?」 「うっ……ご、ごめん」 「もう2週間ですよ、慣れてくださいよ……」  どうやら俺は内鍵をかけるクセがあるらしく、何度言われても守屋を部屋から閉め出してしまっていた。  毎回外からガチャガチャとドアノブを回す音を聞いて「またやってしまった!」と、はじめて気づく。開けたときの守屋の顔はきまって無表情だけど、背負う空気はしっかりと苛立っている。怒鳴ってきたりはしなくても『あなた』と呼ばれていたのが『アンタ』に変わるくらいには頭にきている、らしい。  自分のせいだけどほんとに泣きたい……  でも、泣きたい理由はまだ他にもある。

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