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守屋はなんの気兼ねもなく俺の前で服を脱ぐ。いやふつうのことなんだけど……
意識している俺だから気になってしまうことなのはわかっていても、着替えのたびに、心臓があり得ない心拍数になる。目の毒なんてよく言うけど、もうすこしで致死量になりそうだ。
とくに――風呂上がりが問題、で。
スウェットの下だけはいた上半身裸の状態で、タオルをかぶって帰ってくるのが、もうやばい。
濡れた浅黒い肌に、湿ってしずくを落とす黒髪。すこし伏し目がちな横顔。のびるたくましい首すじと、きれいな背中。張り出た腰骨と締まった影を落とす腹筋――
男が好きなわけじゃ、もちろんまったくない。ない、けど。この身体つきはダメだと思う。この顔もイケナイ。艶があり過ぎる!
でも見ちゃうんだよな……そして、いつもにらまれる。
「……なんですか?」
「――え?……な、なんでもないよ! はやく服着ろよっ」
やだ! 服なんて着ないでずっと裸でいて――なんて気持ち悪いこと、言えるはずがない。
そんなことを考えているなんてバレたくもないから、トゲのある言い方になりながらでも必死に隠す。もっとちがう言い方できないのか、と考えるけど、あせって空回りばかりで素直な言葉が出てこない。
「俺の部屋でもあるんですから、好きにさせてもらえません?」
「……で、でもっ」
「でも……なんですか?」
「な、んでもないっ!……こっち見んなッ」
俺と守屋は2週間ずっとこんな感じ。
何様だって言われてキレられても仕方ないくらいなのに、守屋はイラッとしたり多少の嫌みはこぼしても、俺を嫌だと思っているようには見えない。基本的には、寮に不慣れな俺の面倒をよくみてくれている。
蓮池が最初に言っていたように、静かで頼りになって、そのうえ先輩を立てられる、というのは本当だった。
というか、これだけ自分のペースを乱されても他人の世話がやけるなんてデキた人間すぎる……
だから、あらためて気持ちを噛みしめてしまう。
なおさら余計に――すきだと思う。
きっかけは一目惚れだった。だから、どんな人なんだろう、と。一度だけ、廊下の端からのぞいたことがある。
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