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「何を……してるんですか?」  聞こえるはずのない声がする。いま――妄想の中でウソみたいに甘くささやいていた――ここにいるはずのない、聞こえちゃいけない声が。  反射的に顔をあげた先には、ドアを開けた状態で、おなじように驚いた表情で立っている守屋がいた。 「あ、え……もり、や?」  なんで守屋がここに。あれ、これ本物……? 「めずらしく鍵かけてねぇなと思ったら……スゲーことしてますね、アンタ」  守屋は俺から視線を外して、開けたままだったドアを後ろ手で閉めた。その横顔に、動揺はすでになかった。無表情に近い、いつも通りの顔。 「あ、え……っと?」  気まず過ぎる沈黙が、ほんのすこし流れた。 「……とりあえず、隠すかなにかしたらどうです?」 「え?……あっ! ご、ごめんっ」  スタスタと部屋に入ってきた守屋は、至って冷静に指摘する。冷静に言われるから俺も思わずあやまって、言われた通りに布団で隠す。  それを守屋は横目で見て、そして――鼻で笑った。  一瞬で、顔に血が集まる。ドクドク耳の中で心臓が鳴る。頭が破裂しそうなくらいの恥ずかしさが、体中を駆けめぐる。  ――もう、泣きたい! 泣きながら死にたい!  極度の羞恥心で、手から足から小刻みにふるえてくる。回らない頭で、俺はどうやって命を絶とうか本気で考えた。 「……辻元先輩でも、自分でしたりするんですね」 「な、わっ……悪い、かよ」  そんな俺の心が読めるはずもなく、いや読む気なんてないのか……守屋はこの2週間ずっと聞いている抑揚のない声で、そんなことを言ってくる。  『ドン引きしてます』と、明らかには聞こえてこないその声と言葉に、すこし安心した。  だけど俺の口からは、こんな時でもトゲを刺すような言葉しか出ていかない。  どうしていつも、こんな言い方になってしまうんだろう。コミュニケーション能力ってなんだ。自分の不器用さに、さらに泣きたくなる。

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