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「べつに、悪くはないですよ?……シコってるだけ、ならね」
区切って含ませるような言い方が気になって、守屋に視線を向ける。でも、守屋の視線は俺を向いてはいなくて……
一瞬遅れて、その合わない視線が――守屋が『なに』を見ているのか気づいた俺は、
「アンタ……俺の下着でヌイてたんですか」
――もはや、泣きたいも死にたいも通り越した。
「ち、ちがっ……これはっ俺のでッ」
それでもまだ生き残りたい俺は、空回りする思考で必死に言い訳をした。でも守屋は、きっぱりそれを否定する。
「いやちがわないでしょ。それ俺がいま風呂に持ってこうとしたやつだし……なんなら名前も書いてありますよ」
「な、名前……?」
「寮ですからね。洗濯のとき取り違えないように義務付けされてんです」
「……ほ、ほんとだ」
「だから言ってるじゃないですか」
寮ってそんな決まりがあったのか!? なんで教えてくれなかったの――というか、もう言い訳できないじゃん! 死ぬしかない……すきなやつにオナニー見られたなんて、もう生きていける自信ない!
頭の中で叫びながら涙目で顔を伏せていたら、ギシッと、唐突にベッドが沈んだ。
反射的に顔をあげると、守屋が片手をついてベッドに腰掛けていた。膝を抱えて座る俺の顔をのぞき込むように、ほんの少し首をかたむけて。
「な、なんだよ……」
守屋と壁に挟まれて、視線も体も逃げ場がない。
無感情に見つめてくる瞳をただ、息を呑んで見返した。
――なぜか、とてつもなくイヤな感じがする……
「……どうします?」
感情を読み取らせないまま、守屋は尋ねてくる。
「ど、どうって……なに、が?」
「俺の下着でヌイてたあげく、それを俺に見せつけた……この“落とし前”です」
俺は、その時はじめて守屋の“満面の笑み”というものを見た。
ああ、やっぱり男前だなぁ好きだなぁこの顔と雰囲気……と、思ったのは一瞬だけにして。
見たことのないその笑顔の圧力に、フリーズしかけた頭で守屋が寄越した言葉の意味とその心意を整理する。
落とし前……? 責任を取れと、そういうことか?
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