15 / 171
1_14
「し……下着ならっ新しいの買う、からっ」
弁償しろって言ってるんだよな、たぶん。たしかにこんなもの返されたって困る。
べつに汚したわけじゃ……いや変わらないな、もう。
「それだけですか?」
にこり、と。文句のつけどころない笑顔はそのままに、守屋はそれ以上を促してくるからあわててつづける。
「1枚だけじゃ、なくて! さ、3枚買ってくるっ」
「ありがとうございます、他には?」
「ほっ、他? えっと……ご、ごめん。守屋でヌイたりして、ごめん……なさい、でした……」
下着を買い直す以外に償う方法が見つからない。申し訳なさばかり募るから尻すぼみにあやまって、まだすこし笑みを浮かべる守屋から目を逸らした。
でもなにが悲しくて、年下のこいつに『おまえでオナニーしてごめんなさい』なんて言わなきゃいけないのか――俺か! 俺が悪いのか!
「あやまるのは当然だと思いますが……でもそれじゃあ、まだ許せないですね」
消え入りそうな声でも一応は謝罪を口にしたっていうのに。あいかわらず言葉だけは無感情に守屋はつづけてくる。
「経済的損害はそれでいいですけど、精神的苦痛はあやまってもらっても癒されないんですが?」
「精神的……苦痛?」
「男にオカズにされて腹立たないやつなんていないでしょ。しかも現場見ちゃって、名前まで呼ばれてたとか……トラウマ確定」
「き、聞こえてっ!」
心臓を握り潰されたような俺が出せた声は、悲鳴に近かった。
まさか名前呼んでたのはバレてないよな? と、思っていたのに。もう本当に、ムリだ。こんなの、立ち直れない。
情けなくて、恥ずかしくて。なにより、申し訳なくて――ぐっ、とくちびるを噛んだ。
『アンタにもいいことあるから!』
そう言った先生の言葉が、頭をめぐる。彼女は本当にいいことを用意してくれていたのに。
あのとき、こんなことになるなんて予想もしなかった。仲良くなりたいなんて、期待までしていた自分がバカみたいだ。
さわりたいなんて、欲張らなければよかった。手が届きそうな距離で満足すればよかった。
そうしたら、守屋に嫌な思いはさせなかったのに。トラウマもつくらなかったのに。
こんなみじめに――失恋しないで済んだのに。
「……許してもらいたいですか、辻元先輩」
涙の量が増えてきた目を閉じないようにこらえていたら、ふいに低い声でつぶやかれた。
ともだちにシェアしよう!