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「し……下着ならっ新しいの買う、からっ」  弁償しろって言ってるんだよな、たぶん。たしかにこんなもの返されたって困る。  べつに汚したわけじゃ……いや変わらないな、もう。 「それだけですか?」  にこり、と。文句のつけどころない笑顔はそのままに、守屋はそれ以上を促してくるからあわててつづける。 「1枚だけじゃ、なくて! さ、3枚買ってくるっ」 「ありがとうございます、他には?」 「ほっ、他? えっと……ご、ごめん。守屋でヌイたりして、ごめん……なさい、でした……」  下着を買い直す以外に償う方法が見つからない。申し訳なさばかり募るから尻すぼみにあやまって、まだすこし笑みを浮かべる守屋から目を逸らした。  でもなにが悲しくて、年下のこいつに『おまえでオナニーしてごめんなさい』なんて言わなきゃいけないのか――俺か! 俺が悪いのか! 「あやまるのは当然だと思いますが……でもそれじゃあ、まだ許せないですね」  消え入りそうな声でも一応は謝罪を口にしたっていうのに。あいかわらず言葉だけは無感情に守屋はつづけてくる。 「経済的損害はそれでいいですけど、精神的苦痛はあやまってもらっても癒されないんですが?」 「精神的……苦痛?」 「男にオカズにされて腹立たないやつなんていないでしょ。しかも現場見ちゃって、名前まで呼ばれてたとか……トラウマ確定」 「き、聞こえてっ!」  心臓を握り潰されたような俺が出せた声は、悲鳴に近かった。  まさか名前呼んでたのはバレてないよな? と、思っていたのに。もう本当に、ムリだ。こんなの、立ち直れない。  情けなくて、恥ずかしくて。なにより、申し訳なくて――ぐっ、とくちびるを噛んだ。  『アンタにもいいことあるから!』  そう言った先生の言葉が、頭をめぐる。彼女は本当にいいことを用意してくれていたのに。  あのとき、こんなことになるなんて予想もしなかった。仲良くなりたいなんて、期待までしていた自分がバカみたいだ。  さわりたいなんて、欲張らなければよかった。手が届きそうな距離で満足すればよかった。  そうしたら、守屋に嫌な思いはさせなかったのに。トラウマもつくらなかったのに。  こんなみじめに――失恋しないで済んだのに。 「……許してもらいたいですか、辻元先輩」  涙の量が増えてきた目を閉じないようにこらえていたら、ふいに低い声でつぶやかれた。

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