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そのつぶやきに、さっきのイヤな感じがまたぶり返す。心臓が、ヒリヒリ灼けるような、つめたくなるような、そんな感覚。
突きあげるような焦燥感に、そっと視線をあげた。
視線がからみあったのを俺の同意と受け取ったのか、守屋は小さく笑った。
それは、とても綺麗で凛々しくて――
別人なんじゃないか、と息を呑むほど――意地の悪い、笑みだった。
「……だから、示談にしましょう? 辻元先輩」
言葉はやさしく歩み寄るのに、そう告げる口許は不敵な曲線で微笑んでいる。のぞき込んでくる切れ長の瞳は、憐れむようで見下すようだ。
『譲歩してやっている』と――その視線、声、表情のすべてが、俺に無言の脅しをかけてくる。
「じ……示談、って……どういう……」
こんなに威圧的な守屋は、見たことがない。こんなにたのしそうな顔は見たことがない。
そこはかとない違和感が、俺の背筋をおりていく。
「男の下着をオカズにしてる変態です、なんて噂がたつのも、それで受験がダメになるのも嫌でしょう?」
まるで、小さな子をあやすような口振りで。さっきとはちがう悪気のない笑顔を浮かべて。
守屋はとんでもない要求を、こともなげに言ってくる。
「だからはやく、して見せてください。アンタのオナニー」
悪意をすこしも感じさせない申し入れに、胸の前に引き寄せている布団をさらに強く握りしめた。
恐怖と恥ずかしさと動揺にふるえながら、つめたい汗が背中を流れていくのを感じながら。どう足掻いても打破できない絶体絶命の構図に、ひきつって出せない声を飲み込む。
「できますよね? 自分の立場、わかってますもんね?」
あくまでにこやかに“交渉”をつづける守屋を精一杯にらみつけた。
泣きたい、暴れ出したい気持ちを歯を食いしばって押さえつける。
「アンタの嫌がることがしたいんです。申し訳ないと思ってるなら……“誠意”見せてくれますよね?」
だって、俺は被害者なんだから――
慈悲深げな笑みなのは目許だけで。やっぱり嘲るようにくちびるを歪めて、言葉のおわりにそう含ませてくる。
いままで見てきた守屋とはまるでちがう、その支配的な態度にどうしたって問いかけずにはいられない。
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