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「でもそれは、あなたが寮に来てから気づいたんです……だって、スゲーわかりやすかったですからね」
「そ、んなことっ」
ないと思うと言いきれなかったのは、守屋が意地悪そうに笑うからだ。見透かすような目で、くちびるに不敵な曲線を浮かべて。
この微笑みに勝てないことは、さっき散々思い知った。
「口ではつっかかるくせに、そうやって顔が赤くなるんですよね……俺と話すときだけなの、知ってますよ?」
「……き、気のせい、だっ」
「だからあなたを困らせ……いじめたいなって思ったんです」
「……い、言い直せてないけど」
「いじめたいが本当です」
「なっ、なんでだよっ!」
ふいに、うつむき気味だった顎をすくわれた。守屋を見るように、軽くその指先にあげられる。
「俺のことがすきなくせに、俺のことがすきだから素直じゃない……なんてかわいいでしょ?」
「か……かわっ?」
まったく言われ慣れない言葉に、守屋の口から出てくるのも意外な言葉に、声が上擦る。
そんな俺の反応を面白そうに見つめてくる目は、ますます意地が悪そうに細められた。
「だから、好意を利用させてもらいました」
「り、よう……って、まさかッ」
熱くなっていた顔から、さあっと血の気がひいていく。瞬間的に赤から青に色が変わった俺の顔を、やっぱり守屋はたのしそうな笑みで見つめてくる。
「もうわかったでしょ? どうして示談なんて言ったのか、どうして俺がやめなかったのか」
「お、おまえっ……は、はじめから……っ」
「存分に悔し涙も見れたし、ほだされて従順な格好も見れたし、告白まで聞けて俺は満足です」
「う、そ……っ」
――つまり、最初から俺をふりまわすことが大前提。ぜんぶ、守屋の計画通り。
また顔色を赤へ戻していく俺は涙目だ。守屋の思い通りそのままだった自分が、本当にほんっとうに恥ずかしい。
「お、おまえ……ホントに、意地悪い……のかよっ」
「でも、俺のことすきでしょう?」
「なっ……」
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