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最近の真尋さんはズルくて困る。
本人にその自覚があるかどうかは微妙なところだが、どちらにしても困ることに変わりはない。
自分ばかり好きなつもりでいるのが、本当に――厄介だ。
「あ、ちょっと……ほんと、に?」
とりあえず両方の手首をシーツに縫い止めて、首や鎖骨にキスを落としていく。
「……なにがですか?」
「だからっ、その……」
頬にくちびるを移すと、ためらう言葉とは裏腹に、期待するように顔を傾けてきた。
――いつもの俺の手順通りなら、それで正解。
「精子飲んだ人とは、キスしませんよ」
「なっ……」
見下ろした顔に、恥ずかしさと落胆が混じる。目もとから耳までを一瞬で赤くして、見開いた瞳を濡らしていく。
じわっとかうるっとか――まあそんなような、涙が滲む音まで聞こえてきそうだ。
「そんな顔してもダメです……“お仕置き”って言ったでしょ」
真尋さんは感情がそのまま顔に出るから、からかっていてたのしい。いや『お仕置き』は本気でするが。
「でも安心してください。お仕置きは“オマケ”です」
「そんなオマケいらねぇよ!」
「大丈夫です、ちゃんと最後までしますから」
「オマケ付きならいらない!」
敵わないのがわかっているのに、手を振りほどこうと必死になる姿はかわいらしい。
それでも、いつもの嫌がり方に比べると本気度が高い。『お仕置き』なんていう、冗談で使うような単語にしっかり怯えてくれているらしい。
「……“口ごたえ”は、しない方がいいですよ」
「──いっ!」
やわらかい耳朶を噛む。小さく穴でも開きそうなほど強く。それだけで、真尋さんは大人しくなった。
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