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――だって。
面倒事が嫌いな守屋は、俺との関係がバレないように付き合いはじめた翌日からも、なにも態度を変えなかった。
部屋以外の場所では極力離れ、最低限の会話にとどめて。“ただの先輩(部外者)と後輩”を貫いていた。その冷静に振る舞う感じは「あれ、俺たち付き合ってるよね?」と、若干の不安を覚えるくらいだったのに。
なのに最近――この数日は顕著に――部屋以外の場所でも、俺にやさしく接してくる。部屋ではこんなに求めてくる……
口に出して言わないのは守屋も俺もおなじなんだけど、お互い思っていることはいっしょなのがわかるから。それがうれしくて……だから、つらい。
ほんの1か月前は、こんなの予想なんかしていなかった。離れたくない気持ちは、もっと一方的なものだった。
『夏休みのあいだだけ』と、先生は言っていた。
偶然に都合よく仕組まれた、この寮生活は――守屋といっしょにいられる毎日は――あと3日しか、残っていないんだ。
「辻元、アンタってほんとに素直」
実際の入試とおなじ、6時間かけて描き上げた油彩画を前にして、おおげさに悩ましく頬に手をあてる先生はためいきをついた。
「……えっと、それが評価? ですか?」
きいてみたはいいけど、絵の評価じゃなさそうだな、これは。デッサンはあまり得意だと思っていないから、夏休み中ずっとやっていたのに。もしかして、それでなにか悪いほうにいっちゃって、それ以前の問題になったとか?
「や、まあ。うーんと……悪くないんじゃない? 構図の取り方もモチーフの理解も“らしい”から大丈夫!」
さっきのためいきはなんだったのか。先生は俺の背中をバシバシたたいた。油彩絵の具がついた手で。
俺がツナギを着ていなかったら、制服捨てなきゃいけなかった。なんでこの人は、幼児のおえかきみたいに、こんなに手が汚れるんだ……
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