いまだにあの時の――守屋の言葉や声や手つきやなんだかんだを――俺は生々しく覚えていて、ふいにその微熱と感触に襲われたりする。実は自分って、あのとき言われたように変態なんじゃないか、って悩んだりもする。 　いや、でも仕方ない。まだあのときの守屋は他人行儀で。それはそれでカッコいい、からな。いまとちがう感じにつめたい守屋……アリだと思う。 　でも、いまさら“あの守屋”に戻られたら、俺はたぶん本気で泣く。だって、反抗したら殴られそうだった。そう考えるとなんだか自分で笑えてくるけど。守屋に対してそう思うのも思っていたのも事実だ。 　ほんの数週間前まで――そんな、学年も部活もちがう、接点のない関係だった。お互い姿を確認はしても、話したこともない関係。 　それからまだ１か月もたたないのに。まだ、同室でいるのに。まだ今日だって、あとすこしの時間で会えるのに。俺はもう―― 「さみしくなっちゃってるんでしょ」 　心の底からたのしそうに三日月が笑う。ニタニタする顔にあてられて、頬にじわっと熱が集中してくる。図星をさされたよりも、心中お察しするよ～的な揶揄がいたたまれない…… 「ち、がっ……べつに、守屋には学校はじまったって会えるし！」 「アタシ、守屋のことだなんて言ってないけど」 「くっ、二度も引っかかるなんて……っ」 　いつかの再現に、やっぱり俺の顔はさらに熱くなる。 　夏休み前から俺の日常は何ひとつ変わっていない……いや誘導尋問してくる人間が増えたから悪くなっている。 　でも、ムチ打たれたら飴がもらえるんだから結果的にはいいのか？　飴は甘いけど、いいことなんだろうかそれって。飴のためにムチを……ドエムか！　でも守屋はエスだと思う。だからって俺がエムってことじゃあ、ないけど！ 「ほらね“いいこと”あったでしょー？ 偉大な師を持ったと、月を見るたび思い出せ！」 　ドヤッ！　と、本当に声に出して先生は胸を張る。甘いんだか苦いんだかわからない感傷との間抜けた対比に遠くを見ようか迷っていたら、ツナギのポケットが振動した。