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 ――守屋かな? もしかして、もう練習おわったのかな。  すこし期待してスワイプをした画面に、でも俺は白目になった。どうして俺のまわりって……ふりまわす人間しかいないんだろう。  嘆いても変わらない現実を受け入れるため、長めに息を吸ってゆっくり吐く。『了解』と打つことすら面倒で、既読をつけてスマホをしまう。  不思議そうにしている視線に、俺は向き直った。 「先生、もう帰りますか?」 「ああ、いーよ? 今日はおわりで。……なぁに? 外出するのー?」 「いや、なんか……招かれざる客が」  手早く片付けを済ませる俺に、先生がまたニタニタしながらきいてくる。なんだか、アリスに出てくるチェシャ猫みたいだ。これだけたのしそうなら、たしかに消えない笑いも残るだろう、俺の目に。  そんなメルヘンな思考で、美術室を出ようとした。でも、ふと過った心のモヤに、受験生思考が戻ってくる。 「……心理状態モロに出るってよくない、ですよね」  自分も準備室へ戻ろうとしているところで止まった先生は、ぱしぱしとまばたきを数回した。そして気怠げに微笑む。 「いやーべつにぃ? おおざっぱに言ったら表現てそこだし。アンタから素直さ取ったらなーんも残らないでしょ」  だから頑張れと、めずらしく教師然として声なき言葉を贈られる。やっぱり、この人を選んでよかったな…… 「ってゆーか素直じゃない辻元なんて可愛くないし、つまんない! 簡単に言うと、万死に値する」 「ボロクソかっ!」

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