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 まばたきのあいだの表情はもうすでになくて――気のせいかな、とちょっと首を傾げる。  いやこわかったから気のせいであってほしい……かも。 「あのっ! はじめましてっ、兄がお世話になってます、妹の千尋です!」  沈黙をチャンスだと思ったのか、千尋がちゃっかり自己紹介をしてくる。こいつ、俺とおなじで人見知りのクセに勇気だしやがって。なんか声もつくってるし、そんなに守屋イケメンか! 「……どうも。守屋です、こちらこそお世話になってます」  だされた勇気に応えるように、守屋は微笑んだ。無表情だった顔がウソみたいにやさしくなる。  ――なんだ、その笑顔……  やっぱり外面いいんだな、と目を細めたくなる気持ちの裏側から、ふつりとまたちがう気持ちが浮かんでくる。じりじりと。身体のどこかが焦げついていくようなヨクない感覚に、俺は守屋から視線を逸らした。 「すみません。俺、まだコーチと話があるんで失礼します」  軽く頭を下げた守屋は、廊下の列に紛れて去っていった。なにか言いたげな視線が一瞬向けられたのは――たぶん気のせい。気のせいで、あってほしい。  手を振ってそれを見送っていた蓮池が、時計をチラ見して席を立つ。もうすぐ夕食の時間だ。 「じゃあ、千尋ちゃん今日はここまでな。面会時間過ぎてた」 「えー守屋さんと話す気満々だったのにー」 「千尋……っ」  まさか守屋と付き合いたいとか思ってないよな? とか、口走りそうになって奥歯でぐっと言葉を噛みつぶした。  待て待て、なにを俺は。自分の妹に対抗心を燃やしてどうする。見たことない部類のやさしい顔だったからって、気にしすぎ。  そう思うのにまた、じりっと胸が熱を持つ。やだな、あんな顔しないでほしい。  思えば思うほど、またじりっと熱がそこを刺す。ほんとヤダ。あんな顔の守屋を俺は、知らない。  俺じゃない子には、俺とは、全然ちがう顔するとか。そんなの、そんなこと……俺はぜんぜん、しらない。

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