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「ねぇ兄貴、これあげるね。お風呂上がりとかに使って?」
蓮池とは寮の入口で別れて、千尋を校門まで送ると、カバンの中を漁って何かを出してきた。
ファー素材のふわふわしたポーチから出てきたのは、小さなガラスのボトルスプレーだった。レトロな装飾の向こうで、とろみのある淡いピンク色の液体が街灯に照らされて、とぷんっと光る。
「なにこの女子っぽいアイテム……」
「アトマイザーって言うの! 持ち歩き用に香水を入れるんだよ。兄貴ってほんと、こういうの知らないよね~」
なんで香水? と思うけど、変なニオイすると言われたことを思い出した。なるほど、俺のためじゃなくて守屋のためだな。あとそんなバカにした目で言うな、気にしてないのに気になるだろ。
「女子じゃないんだからわかるワケないだろっ」
「付き合ったことないから、こういうの知らないんだよ」
あたりまえに言われて涙ぐむ。付き合ったことはないけどイイ感じになった子はいるよ! って言ってもいいだろうか……やめとこう、負け惜しみだ完全に。付き合ってるけど男だよ!……は、正気の沙汰じゃないな。
「……おまえもう帰れっ」
「帰ってるでしょ、もう!」
負け惜しみとそう大差ない別れを告げて、押し出すようにして千尋を校門から見送る。でも千尋は急に立ち止まって振り返った。
「あと2日しかないんだから、ちゃんと荷物まとめなよ?」
忘れかけてはいても……完全には忘れきれない事実を突きつけられて、目を伏せる。ぎゅっと、胸が締めつけられるから、渡されたアトマイザーとやらをすこし握りこむ。
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