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 その前に、守屋が怒っていたらどうなるのか、俺はよく知らない。――なら、機嫌が悪いとか?……それもちがう気がする。  機嫌が悪いのは、どちらかというと俺のほうだ。  千尋に向けた“あの顔”を思いだすと、勝手に眉間にシワが寄ってくる。  俺に敬語を崩さないところから考えると、守屋は礼儀正しいやつなんだとは思う。“先輩の妹だから”で、あの対応に単純にうなずけるはずなのに。問題は……俺のモヤモヤはそこじゃないというか。なんか嫌だなと思うんだよ、ショックというか。  ――ショックて、なにがだ? 「……ずっと部屋にいたんですか?」  いつのまに帰ってきていたのか、守屋が部屋にいてビックリする。あいかわらず上半身裸の色っぽい格好で、俺のベッド脇に座った。  ガシガシ拭いているバスタオルと濡れた前髪で、目許はよく見えない。でもやっぱり、なにかを含んだ視線を向けられている気がする。  その“なにか”が、俺にはわからないから、 「うん、ちょっと……考え事してた」  どうしても、守屋と視線が合わないように逸らしてしまう。 「そうなんですか」 「う、ん……」  ほら。やっぱりあいづちだけだ。声はいつもと変わらないけど“変”なのはたしか。でも俺も変だから、守屋のことは言えないな、と黙るしかなくて。この違和感 いやだな……と、また眉のあいだにきつく力が入る。  付き合ってから沈黙が苦痛だったことはない。だけどいまはなにより、この静かな音が耳に痛い。 「……真尋さん」 「ふぇあっ!?……な、っなに?」  背中に重みを感じた、と思ったら抱きしめられた。守屋は首と肩のあいだに顔を埋めてくるから、くすぐったい。頬につめたくて湿った髪があたって、さらにくすぐったい。 「さっきから気になってたんですけど……このにおいなんですか?」  首すじから響いてくる低音は、鼓膜に甘過ぎる。裸の胸から、俺のTシャツ越しに体温が伝わってきて、やっとすこし安心した。  ――いつもの守屋っぽい。怒ってるとか、気のせいだきっと……

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