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「嫌じゃ、ない……」 「我慢してるのわかります。嘘つかないでください」  強い口調で見透かされて、あとにつづく言葉が出てこない。  たしかに、我慢はしている。だって俺、うしろからされるの……好きじゃない。顔が見えるほうが、目があうほうが、安心するから好きだ。  守屋は、もちろんそれを知っている。でもいまの守屋は抱きあってしたって、きっと俺を見てはくれない。  だけど―― 「嘘ついてない……っ」  してほしい気持ちは、本当にある。  だってわからないんだもん、俺……だから守屋にさわりたい。  そうしたら、ほんのすこしでも、守屋が俺になにを求めているのか、わかるかもしれない。 「黙って耐えてれば、俺の気が済むと思いました?」 「ち、が……なんでっ」  それなのに、無感情な声で守屋は言う。 「真尋さん……素直なのと、従順なのはちがうんですよ」 「……っ」  そんなこと、言われても。そんなふうに正されても、どうしていいか余計にわからなくなる。  まばたきをこらえているのに、勝手にぼろぼろ涙が、こぼれていく。 「……だから、そんなに俺を甘やかさないでください」  伸びてきた手が、俺の頬を包んで涙を払う。 「そんな真尋さんじゃ、俺が……あやまれないでしょ」  そう言って、守屋は綺麗な苦笑を浮かべた。 「なん、で……」  ほんの一瞬前とは別人みたいなふれ方。どうして、守屋があやまるんだ。なんで急にそんな、やさしくするんだよ。  拭ってもらったのに、また涙があふれていく。 「なんで、だって……悪いの……俺なんだろ?」 「……真尋さんは悪くないです」  またこぼれそうになる涙のたまりに、守屋はくちびるを寄せてきた。俺の身体を起こして、うしろから囲うように抱きしめてくる。

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