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でも、とりあえずいまは。この、いつもの守屋に安心させてもらおう――そう、思ったのに。
「……ほんと。甘くて、女みてぇなにおい」
守屋のひとりごとみたいな言葉が、胸を刺すから。刺さった痛みで、息が止まる。
「お、男だよ……っ」
「……知ってますよ、なに言ってんですか」
ムキになって返してしまった言葉を守屋は軽く笑って流すけど、俺は全然笑えない。
上手く、息が吸えない、吐けない。鼓動するたび、心臓が重い。
守屋から離れようとする自分がいる。でも囲う腕にすがりつきたい自分もいる。
できない呼吸と鈍い胸が苦しい。
嫌だ……そんなこと言わないでほしい。不安の正体に気づきたくない、のに。
――考えてみればそれは、あたりまえに近い不安だ。
いままで気づかなかったのが不思議なくらいの事実。
なんで俺は、そんな単純ことに。なんでいまさら……もう、離れる日が迫っているのに。
甘い香りが、部屋に漂う。守屋のつぶやきが耳に残る。どれだけ洗い流しても、纏わるこの不安の残り香は、たぶん消えてくれない。
だってきっと、そうなんだ。
“俺じゃない誰か”を好きだったことが……守屋には、きっとある。
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