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 守屋は、男の俺から見ても一目惚れするくらいカッコいい。  背が高くて締まった身体をしていて、男前な整った顔で、無口だけどやさしくて。凛とした笑い顔に、低くてやわらかい声とさりげない気遣い―― 「なにがあったか知らないけど、アンタ受験生なんだけど……」  ゼッタイモテるに決まっている――いや、わかんないけど……というか、彼女はいたんだと思うんだ。  だって、俺に性的サービスを迫ってきたときの守屋を思い出してみろ。慣れすぎだろう。あれでもし童貞だっていうなら、非童貞のレベルが振り切れる。それに「女みてぇな」ってつぶやいたあの言い方は“そういう子”を知っているから出てきたような言葉だった。 「ねぇ……そんな感じでこのままいくの? 大丈夫なのそれ?」  だから。守屋がどんな好みしてるのか……俺は知らないけど。  もし、好みそのままな人が現れたら。考えたくないけど、もし俺と別れたら。  きっと、俺はその人に勝てない。  きっと、守屋はその人と付き合う。  ――だから。 「……自信ないよ、俺」 「……聞いてないな、これ」  だって、俺は男だし。好きだと思ってくれているのは知っている。でも、守屋は男が好きなワケじゃ、たぶん……ないし。  「俺をすきだから素直じゃないなんてかわいい」とか言っていたけど、そんな理由はいくらでも覆る。  いつ、この関係に疑問を持ったって、不思議じゃないと思うんだ。  俺だって、それなりに悩んだし頭おかしいとも思ったし――叶わない、とも思った。  叶わないと思っていたのにそうじゃなかった。あたりまえだと思っていたことがあたりまえじゃなかった奇跡に、だから俺は浮かれていて、そしていまその“あたりまえ”に打ちのめされている。  これは、どうにもならない不安だ。俺が守屋をすきな限り。守屋が俺をすきでいてくれる限り。  わかっては、いるんだけど。  頭と心は、そんな簡単に連動しないものだ。 「……寒そう、こんな日に外なんて」  換気も兼ねて、美術室の窓は開け放していた。吹いてくる風はすこし肌寒い。空を見上げればうっすら曇っているから、余計に鬱々とした気持ちになる。

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