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そのまま視線をさげれば、羽根のような飛沫のあがる屋上のプールが見えた。
ちょうど水からあがってきた守屋が視界に入る。離れていたって、濡れた肌ときれいな背中は、俺にその温度を思い出させる。
すきだな、やっぱり……と、思うことは変わらない。
夏休みがおわったら、水泳部は校外のプールに通う。この位置から守屋をながめるのは、この夏で、明日で見納めだ。
そして来年俺は、この美術室にいない。
「……おいおい、女子に囲まれてるじゃないか」
ストップウォッチを手にした女子マネージャーと話していた守屋に、近寄る女の人がいる。学校ジャージじゃないから、たぶんコーチ。見たことない人だ。でも俺、基本的に守屋しか見ていないし、気づいていなかっただけかもしれない……けど。
その人はなにか女マネに話しかけて、女マネと守屋が話して、守屋はその人に笑いかけた――っぽい。
美術室と屋上の位置関係的によく見えても、細かい表情まではわからないから、確信は持てないけどそう感じる。
――ジリジリ、胸が焦げついてくる。
部活じゃん。あたりまえじゃん。守屋を見つけてから何度も見てる光景じゃんそんなの。そう思うけど。
俺は同室の守屋しか――俺といっしょにいる守屋しか知らないから、つきあっている……とはいえ俺はホントに部外者なんだなぁ、って、“あたりまえのこと”がまた増える。
他の部員も寄ってきて、守屋を囲みながら仲良さげに会話はつづいている。そうやって俺の知らないところで、守屋は自分の日常を過ごしている。
それはべつに……つきあう前もあとも変わらない、けど。
「俺がいなくても守屋は……」
――さみしくないの?
「……あ、うわっ」
なんの前触れもなく、守屋がこっちをふりかえろうとした。俺は窓枠から外れようとした結果、そのまま椅子から転がり落ちた。背中と後頭部を順番に強打して、天井を仰ぐ。
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