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だってたぶん、蓮池に言ってもこんなふうにやさしく慰めてくれない。そして励ましてもくれない、と思う。あいつは俺を甘やかさないと、それこそ昔から明言している。
「……さすが葛西くん。守屋の性格もよくわかってるね」
「ダテに守屋さん追っかけてないでしょー?」
今度は得意そうな顔でにへっと笑うから、またすこし気持ちが軽くなった。
葛西くんは守屋とおなじ中学出身で、その頃からあこがれを抱いているらしく「高校も追いかけてきたっ!」と言っていた。
そのあこがれは結構なもので「同室でうらやましい、交換してほしい」とか、俺にことあるごとに言ってくる。同室の俺にも――同室ってだけなのに、ちょっとした尊敬があるようで、こうやって心配してくれるのも、たぶんその熱量が関係している。
守屋が後輩に慕われているのは、意外だしスゴいなと思っても……あんなに意地が悪いのは俺にだけなんだな、とも思うからそれは言わない。ホント、なんであいつ俺にばっか意地悪いんだろうか。
「この前の大会でも、守屋さんすごかったスからね」
「あー……この前の、ね……」
誇らしげな葛西くんに、俺はうっすら目を細めた。だって納得がいかない。
禁欲する云々でお仕置きが云々だったこの前の大会で、溺れるとかどうとか言っていた人は、大会記録を更新して帰ってきた。表彰台にもしっかりあがっちゃって、ホントにあいつは……
「ほら、見てくださいよ! 全然うれしそうじゃない守屋さん、カッコいくないスか?」
「あーうん……そうだね」
嬉々としてスマホを操作する葛西くんは、大会で撮った集合写真を見せてきた。ほんとだ、ぜんっぜんうれしそうじゃない……俺なんだから当然、って感じなんだろうなたぶん。
無表情が、無感動よりは不遜に見えるところが守屋らしい。そんなことにまた目を細めそうになって――やめた。
「……この人って、男子部のコーチなの?」
「どの人ッスか?」
「この端にいる……キレイな人。今日、屋上で見たんだけど」
水泳部の、女子部も含めた全員とコーチや顧問が写っているその端に、さっき美術室から見た――守屋と話していた女の人が写っていた。屋上で見たときとおなじジャージを着ているから、きっとそうだ。
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