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かわいいとも、キレイともいえるような女の人。コーチにしては若すぎるような気がする。俺のコーチのイメージが中年、っていうだけかもしれないけど。
「キレイな人ですよねーやさしいし、ハキハキしてるし……あと女子っぽいイイ匂いするし。美人てなんでかイイ匂いしますよね」
葛西くんの言い方だと、水泳部に関係がある人なのは間違いなさそうだ。
だけどそのことよりも、
「どんな、匂い……?」
俺の耳に引っかかる言葉があった。
「えっ……と、女子っぽいー甘くてー……なんていうんスかね」
「かわいらしい匂い?」
間を置かずにきいた俺に、葛西くんはまるっこい目を何度かまばたきさせた。でもまたすぐに、葛西くんは笑顔を向けてくれる。
「そっスね、甘くてかわいらしい匂い……だと思います」
それに俺はやっぱり、目を伏せた。落とした視線には、集合写真が映る。
この、嫌な予感はきっと気のせいじゃない。屋上で見かけたときの胸の焦れる感覚が、そう訴えてくる。
だから、聞きたくないのに。
聞き返さなきゃ、よかったのに。
無邪気な声は、饒舌につづく。
「秋村さんって人なんスけど、女子部の非常勤コーチ? みたいな。大会前とかよく来てくれるんスよ。今年卒業した先輩なんで」
本当に葛西くんは、俺の知らない守屋をたくさん知っている。いいなーなんて、うらやましく思ったりするくらい、そのくらい、嫌になるくらい……
「だから男子部にも顔出してくれるんじゃないスかね? あと……まあ、気になるんだと思いますよ」
葛西くんは、
「守屋さんが1年のとき、つきあってたらしいスから。秋村さんと」
俺の知りたくないことまで、守屋のことをよく知っている――
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