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 窓からの月明かりが、廊下を等間隔に青白く照らしている。その先につづく暗がりに部屋の扉が見えてきて、足が止まりそうになった。  ――寝てる、よな。いつもなら寝てる時間だし。  深夜の廊下は静かすぎる。足音を消すように、ゆっくり歩いた。  つきあたりにある部屋のドアまで来て、ひとつ息を吐く。  ――起きてたら、どうしよう……  気持ち悪くなりそうなほど、心臓が縮む。  慎重にノブを回して、ドアをすこし開く。そのすこしの隙間から、淡いオレンジ色の光が漏れてくる。  いろいろ考えてみても、答えは出ないから。ためらいは数秒にして、中に入ってドアを閉めた。  その瞬間、腕をうしろに引かれたから、息だけの悲鳴をあげる。 「真尋さん」  聞き慣れた声が、名前を呼ぶ。  ふりかえるのを待たずに、守屋は俺を抱きすくめた。  重なる背中から制服のシャツ越しに、体温が伝わってくる。熱が馴染んでくるその速度で、俺の心臓も音をたてるから耳にうるさい。 「……どこにいたんですか?」  耳許でささやく声は、たった1日聞かなかっただけなのに、すごくやさしく鼓膜に響く。  答えない俺を責めるわけでもなく、守屋はただつぎの言葉を落としてくる。 「こんな時間まで……なにしてたんですか?」  囲っている腕に力が入るから、息がつまる。熱と感触がさらに近くなって、俺の体温があがっていく。 「なんで……起きてるんだよ」 「あなたが帰ってこないからでしょ」 「べつに、気にしなくても……」 「心配した俺にそんなこと言うんですか」 「しん、ぱい……?」  驚いてそう答えると、抱きしめている腕から力が抜ける。でも、囲いからは出られなかった。  かすかに息を吐いて、守屋はもう一度尋ねてくる。 「どこにいたんですか?」

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