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「葛西くんのところ……」  あのあと、談話室から葛西くんの部屋に場所を移して消灯時間を待っていた。  ――守屋が寝てから部屋に戻るために。  余計な言葉が、確かめたくないはずなのに守屋を問いただすような言葉が出そうになるから、思いだすような単語もなにをしていたのかも、できれば口に出したくはないのに。  心配したなんて、守屋らしくない言葉に罪悪感が音をあげる。  でも、訊きたがったくせに、答えても守屋はなにも返さない。昨夜ほど気まずくない無言だとしても、いまの俺には耐えがたい。  やっぱり、黙っておけばよかったのかもしれない。どうして守屋のほうが黙るのかはわからないけど、反応を絶たれると、まだ昨夜の怒りは継続しているのかと不安になる。 「守屋、俺まだ風呂……入ってないから。油のにおい、するし」  そんなことが理由じゃないけど。間近の体温にも耐えきれなくて、守屋の腕のあいだから抜けようとすこし藻掻いた。 「真尋さんからそんなにおいしない、って言ったでしょ」 「……気になるから」 「なら、妹さんからもらった香水使えばいいじゃないですか」 「……っ使い、たくない」  叫びそうなのをこらえたせいで、守屋の腕をつかんでいた指に力が入る。あわてて指をはなしたけど、薄く残った爪の痕が、淡い光に反射した。 「……怒ってますか?」  肩口に、守屋の額があたる。短い前髪がシャツをすべるのがわかった。 「それは……守屋じゃないの?」  十分その――いつも通りからほど遠いふれられ方に、抱き返したい気持ちは育っているけど。膨れて、張り裂けそうだけど。 「まだ痛いんだからな……背中」  そんなこと、言いたいんじゃないのに。  全然怒ってなんかいないって、むしろ守屋にあやまりたいはずなのに。“距離”をつくりたい気持ちが、素直な言葉を奪っていく。 「……なら、埋め合わせさせてください」 「え……う、わぁっ」  軽々と足を抱えて腰を取られて、持ちあげられる浮遊感に声がでる。

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