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おい、筋力あるかもしれないけど高3男子をあっさりお姫様だっこするなっ!
そう喚く前に、抱えている重さなんて感じない足取りは早々とベッドへ向かって、俺をそっとその上におろした。起き上がろうとする俺の肩を押して、守屋は覆いかぶさってくる。
「……ま、って守屋」
「真尋さん」
ベッドサイドのほのかな明かりが、せつない顔を綺麗に縁取って。細く金色に光を弾く前髪からのぞいた目許が、すこしだけ歪んだ。
「……ごめんなさい。だから、許してください」
そんなの、俺もおなじはずなのに。他愛ない会話だったかもしれないけど、嘘をついたのは――嘘にしてしまったのは、俺なのに。
どうして。今日の守屋は、すこしも意地悪じゃないんだろう。
やさしくなんてしないでほしい。素直になんてならないでほしい。それじゃ困るんだ。
ほんとうに困る――そんな守屋じゃ、俺が……
「あやまらなくて、いい……」
見つめてくる瞳が痛くて、目を逸らす。また守屋がなにか言おうとするのがわかって、それよりはやく先をつづける。
「怒ってない、俺……」
「……本当ですか?」
「ほん、と……だから、」
埋め合わせなんかいらない。そう言いたい。
なのに、鼻先がやわらかく俺のそれにふれてくる。逃げようとするのを頬にそえられたてのひらが、やさしく戻す。
「……なら、よかったです」
「んっ……」
視線があって、ふわりとくちびるを重ねられた。微熱を感じるだけの短いキスは、角度を変えながら繰り返される。
「……もり、や……っ」
「俺、朝からずっと……思ってたんですよ」
「……なに、を?」
「……真尋さんに、さわりたいって」
浮かせたくちびるから、そんな言葉が吐息にまぎれて落ちてくるから。ぎゅっと、音がするほど胸を締めつけられて、ためいきがこぼれ出る。
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