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青白い、等間隔の四角い月明かりの中を走り抜ける。後方に消えていくのは、もつれるような足音の残響だけ。こんな深夜に、自分のなさけなさに泣きながら疾走しているのも、世界中で俺だけだと思う。
必死に押しのけようとした腕をつかまれて、起きあがろうとした肩も押さえ込まれて。
「どうしてですか」
「なんでそんなこと言うんですか」
「怒ってないって言ったじゃないですか」
わけがわかっていないのは俺もいっしょだと思いながら、それらすべての言葉に無言で答えて、その囲いから転がり出た。
ベッドからおりて、離れようとしたその腕をまたつかまれて。
「……俺のことすきですよね?」
それだけは、責めるような声音じゃなくて――食い込むほどつかまれている腕より、胸が痛んだ。
それだけは、答えればよかった。
すきだよ。
好きだから、ふれられたくない。ふれたくない。
そう答えられたら――「素直じゃなくてかわいい」と、また言ってもらえただろうか。つかむ腕を、まだ、はなさないでいてもらえただろうか。
答えないのと答えられないのは、問いかけるほうにはおなじことだ。素直じゃない気持ちなんて、想ってくれている人を想えないなんて、本当に万死に値する。
乱暴に涙を拭って、俺を甘やかさないと明言している親友の部屋までひた走った。
だってやさしくされるのは守屋にだけでいい。守屋だけがいい、から。
「こんな深夜に来るなんて……うれしいよ。そんなに俺に会いたかった?」
涙と全力疾走のせいで酸素をほしがっていたはずの呼吸が、そのムダに色っぽさを含んだ言葉に止まる。泣きボクロのある甘ったるい目許でたっぷり見つめられるから、過呼吸になりそうなくらい俺はあわあわと無意味に息を吸った。
走ってきた勢いでたたいたドアから、親友じゃなくてホストが出てきたら、誰だってこうなるだろ……
「どーしよう蓮池、金魚みたいにパクパクしてるー辻元がー」
「……峰、おまえ」
いまだドアの前からどいてくれない峰が部屋の中に向かってそう言うと、額を押さえているんだろうなってわかるくらい疲れ果てた声がした。
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