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「だって泣いてたから、笑わせてやろうと思ってー」
「辻元におまえの冗談は通じない……てかおまえも冗談で言ってないだろ……」
やっと顔を出した蓮池は、俺を見てちょっとタレた目を見開いた。
でも、
「……なにヤラかしてきたんだ?」
俺の悪事を受け入れるように、微笑んでくれた。
「ごめんね、辻元。あんまり思いつめてるから面白くてー」
「い、いや……大丈夫」
峰はいつも通りストレートに思ったことを言ってくる。なんだかよくわからないけどたのしそうな顔に、でも嘘っぽい笑みを貼りつけて。
峰とは――進級時にクラス替えをしないから――もう3年のつきあいになるけど、まあ……俺は峰が苦手だ。さっきみたいな“からかい”なしに会話してくれないのが、その理由。
持ち前の見た目のよさと嘘かホントかわからないあいまいな態度で、惜しみなく色気をふりまくこのチャラというかゆるっというかしたホストみたいなやつは、“元”とはいえ水泳部の部長をしていたんだから、この部は一体どうなっているんだ。
「邪魔しないからゆっくりお話したらいいよ。おわったら俺とあそんでね辻元―」
「寝ろ、おまえは」
返事をしたのは当然のように蓮池で、俺はなんとなく笑っただけ。
オレ暗くないと寝れないからーと、峰がヘッドホンをして雑誌を読みはじめたから、俺は蓮池にこんな深夜に来た理由を言葉すくなに話した。もちろん言えない部分のほうが多いから、だいぶザックリした内容になってしまったけど。
とりあえず「俺のせいで俺が悪くて、素直にあやまりたいけどなんか上手くいかない」まとめれば、そんな感じの説明をした。
「素直に言えばいいだろ、それ」
それだけのこと、と語尾につきそうな言い方であっさりむずかしいことを言ってくれる。
「素直に……あやまれてないから、こんなことに」
自分にできそうもないから、またじんわり涙が浮いてくる。
伝えなきゃいけないことも、答えたいこともあるのに。ありすぎるのに。
俺は守屋に、それとは全然ちがうことを――正反対なことをしている、してしまっている。
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