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いやだからさ、と蓮池は返してくる。
「なんで、を言えばいいだろ? “なんであやまれないのか”言えばいいんだよ、そんなの」
なんでなのか俺は知らんけどな、とも蓮池は付け加えた。
「素直に、ってそういうことだろ?」
言われてみると、たしかにそれだけのこと、なのかもしれない。というか、問題はそこにあるんだと思う。
――“なぜ”を、守屋も俺も答えていない。
あの夜、なんで守屋が怒っていたのかも、なんで俺が耐えていたのかも。なんで――拒絶するのかも。
理由がわかれば、どれもぜんぶおなじ感情ひとつからなんだって、笑って許せることなのに。
そんな単純なことだと、だから簡単なことなんだと、やさしくはないけど蓮池の言葉は伝えてくれている。……ような、気がする。俺にそれができるかは、べつの問題なんだけど……
「……そういうこと、なの?」
「そういうものじゃないか?」
やっぱりあっさりと蓮池は返してくるから、それに返す言葉がなにも見つからないんだけど。結構、とっちらかっているつもりでいた頭と心が落ち着いてくる。昨日今日と大量消費していた涙が、乾いてきた。
「けど、よかったと思うよ俺は」
ベッドにならんで腰掛けていた蓮池は、組んだ足の上で片頬杖をついた。昨日、談話室で見たうれしそうな顔をする。
「……なにが?」
「ケンカするような相手ができてよかったな、と……俺とおまえは衝突するタイプじゃないからさ。だから」
「いいことなのか、それ? わかると思うけど……俺いまホントにしんどいぞ」
「しんどくていいんだよ、辻元に足りないのはそれだから」
「……しんどさが足りないの?」
「その先だな。まあ、あとは自分で考えな」
腑に落ちない俺に、蓮池は答えを知っている笑みを寄越す。ヒントはくれるのにな。蓮池はやっぱり俺に甘くない。
「ねぇねぇーなんで蓮池は辻元甘やかさないのー?」
ヘッドホンを首にひっかけて、峰がおかしそうに笑う。どうやら会話のおわりを聞いていたらしい……いやなんだかんだぜんぶ聞いてただろ。タイミングがよすぎる。
「利害が一致するから」
「ああ……親心って複雑なんだね」
「なにそれ、意味わからないんだけど……」
腑に落ちないことを増やされるから俺はつぶやいたけど、蓮池には無視されて峰にはなぜかニヤつかれた。
なんなんだ、なんで蚊帳の外なんだ。
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