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「こどもと大人じゃない?」 「……て、どういうことですか?」 「いいことも悪いことも我慢しないのが、素直なこども。いいことでも悪いことでも我慢しようとするのが、従順な大人」 「……なる、ほど」  とは、言ってみたけど。わかるようでわからない。  素直になろうと思うけど“素直”を考えすぎて、ゲシュタルト崩壊気味。そもそも俺が素直だったこと、あるだろうか。俺は自分のことをどちらだと思っていただろうか、考えたことがあっただろうか。そういう根本的な疑問にたどり着いてしまうから、どうしてもそこから身動きがとれなくなる。  出なくなった涙のかわりに、ためいきをついた。  俺はいつもどうやって守屋と向き合っていたっけ。思いだせないくらい“いつも通り”に話していないんだな、と気まずさを感じるよりも、さみしくなる。  さみしい、と。思っているだけじゃ届かないことも、届かないなら伝わらないことも、十分わかったはずなのに。 「そーんなムズカシい顔しなくてもいいのに。そうやって頭で考えるから、余計なことしか浮かばないのっ」  言うだけ言って、また窓外に視線を戻した先生はのんきな顔をする。かと思えば、額に手をかざして「おっ」なんて言っている。水泳部に好みのモチーフでも見つけたんだろうか……そういう顔だ。おもちゃを見つけたこどもみたいな、てやつだ。  俺のことなんかまったく気にせずはしゃいでいるうしろ姿に、ためいきがまた漏れる。蓮池も先生も、どうしてそんなに達観しているんだろう。 「ためいきつかないでよ、素直なんだからいいじゃない」 「いや俺はいま全然素直じゃ……」 「アタシ、守屋のこと言ってるんだけど」 「……え?」  たしかに、昨夜の守屋は痛々しいくらい素直だったし、それ以上にやさしかった。でも、あたりまえだけどそれを先生が知っているはずがない。もしかして、盗聴とかしてる? まさかな。いや、先生だったらしていても驚きはしないな……  複雑な気持ちで見つめていると、ふいに先生はふりかえった。 「さっ、今日は夏休み最終日だし、もうおしまい! はーい、帰った帰った!」 「え、なんですか急にっ」  腕をつかまれて、立ち上がりきらないままドアまで引きずられる。まったく意味がわからない。あとかたづけは? 俺のカバンは?

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