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 身体ひとつで追いやられて、どうしようもなさに俺は廊下で先生に向き直った。 「大丈夫、あんたはバカだから」 「は?」 「がんばれ仲直り。がんばったらご褒美待ってるよ」 「え?」  いきなり罵倒されて、励まされた。ご褒美って……なんだかもわからないのにがんばれと言われても。仲直りを指しているなら、それはがんばらないといけない、けど。 「いいから、はやく行け少年! 100までかぞえてから廊下の角まがんのよ」  変な注文をつけられて、今度こそ本当に美術室から追い出された。  一方的かつ意味不明な言動――先生の理解(とついでに常識)の範疇をこえる言動は、日常的であるといえばある。とりあえずいまにはじまったことじゃない。……深く、考えるのはやめよう。  ――でも、水泳部……見ておきたかったんだけどな。最後、だし。  記憶の中の、きれいな背中を思いだす。遠いようで、近いような。届きそうで、届かないような。そう感じるのに、感触も温度も簡単に思いだせるから、涙の味にぐっと喉をひきしめた。  寮に帰ったらとりあず、荷物をまとめないと。いつ……守屋と話せばいいんだろう。というか、また会えてないし。いやでもそれ以前に心の準備が、整理が――と、グダグダぐるぐる考えをめぐらせながら。反対校舎とをむすぶ渡り廊下への角で、律儀と思いつつ、言われた通りに数をかぞえはじめた。  廊下の角に突っ立って、数をカウントしていきながら、着たままだった汚れ防止のツナギを脱いでたたむ。100まではまだ、残っているけどそこまで律儀にならなくてもと、 「ひゃく……って、なんのためだか知らないけど」  先生の考えていることがわかってもこわい気がするなとも思いながら、一歩踏み出して角をまがった。  渡り廊下は、ひたすらまっすぐに長い。幅も広い。夏休みは最終日、校舎にいる生徒なんて皆無。部活生がいたとして、例外なくみんな外。  だから、人影も音もない、反対校舎まで延々とはてしなく感じる廊下が、見える――はず、なのに。 「……守屋っ」  渡り廊下をいままさに“こちら側に”渡りきった、その位置に―― 「……真尋さん」  いつかのように、俺とおなじように、驚いた顔で立つ守屋がいた。  3階からおりる階段は向こうにもあるだろっ! なんでこっち来たの――ていうか、部活は!?

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