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「意地悪いのもやさしいのも、ぜんぶ……俺だけがいい……っ」
こぼしたくない涙に喉がひくついて、もっと聞き取りづらくなっていくけど。
「俺じゃない誰かをすきな守屋なんて、やだ……っ」
こどもみたいな言い草だなと、自分でも思う。
でもきっとこれがいちばん、我慢のできない、したくない――素直な気持ちで。
「無理なのに、ワガママだってわかってるけど、でもどうしようもなく嫌なんだ……そんなのっ」
きっと、守屋を困らせるだけだと……思っていたこと。
だから、あやまるから。なんでもするから。
おねがいだから――
「守屋のこと、すきすぎて……ごめん、なさい……っ」
――俺のこと、すきでいるのをあきらめないで。
言い切るか切らないかで、こらえていたはずの涙が頬から顎のほうへとすべり落ちていった。ぼろぼろ落ちていく粒を守屋は黙って見ていたけど、何度目かのゆっくりしたまばたきのあとに、ためいきよりは浅い息を吐いた。
「……真尋さんは、」
呼ばれる名前が、微笑むようにやわらかく聞こえる。
濡れた目をあげてみれば、そこには――いつも通りの守屋がいて、
「本当に……なんつーか、バカですね」
いつも通り冷静に言葉を放つ。
「なん、だと……っ!?」
「だって妹さんでしょ? 愛想よくもしますよ」
いつか聞いた、呆れの一歩手前な声で守屋は正論を言うから、際限なくあふれる予定だった涙が止まる。
「秋村さんは……それ昨日の練習中のことですよね? あれは調子が悪いのをわざわざ指摘してくるから否定してただけで……俺は笑ってなんかいませんよ」
笑える心境でもねえし、と守屋は付け足した。
「そ、そうなの……?」
冷静な正論に言い返せることがなにも浮かばないけど、“秋村さん”て呼ぶんだ……と胸はすこしザワつく。でもそれも、見間違いだったことの安心と恥ずかしさにあっさり流されていく。
――ちょっと、俺どんだけ目が曇っていたんだあのとき。嫉妬ってこわいな……
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