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「あと、香水がいっしょとか知りませんよ」  おい、なんだその目……ちょっと引いてるだろ、バカにしてるだろ。  今度こそ完全に呆れた声でつぶやかれるから、自分との温度差にちがう意味で涙目になる。 「……で、もっ」  ――あの夜の言葉に嘘は感じられなくて。 「だって……いい匂いって言ってたじゃんっ! あ……甘くて、かわいらしいって」  語気荒く言い返している途中で、 「それは心から純粋にあなたのこと言ったんです」 「ガチで俺のことかよ!」  守屋は真面目にさらっと申告してくるからそれ以上語る言葉を奪われる。  ダメダメときめいちゃダメ俺。  守屋は、あいかわらず平素通りの無感情な顔だから、じわじわ赤くなっている俺との温度差はさらに広がる。 「で、でも……秋村さん、すごくキレイでかわいい人……なのに、なんで?」  そんな「どうでもいい」と言いたげな顔に、じゃあ、なにゆえ? と、興味と確かめたい気持ちが―― 「どうして別れたの?」  するんと、口をすべらせる。 「……それ訊きます?」  守屋の片眉が、ぴくっとあがる。あからさまに嫌そうな顔をされて、俺の心臓と肩のほうはビクッと縮みあがった。 「う、あっ……だってっ」  女々しいのか、乙女なのか……なんにしろ、細かいことをつつくのは自分でも引く。引く、けど。  守屋と彼女のあいだには、つきあっていた時間がたしかにあるはずなのに。いまでは情も思い出もないような、すきだったことすら忘れたような口調は、 「だって俺……」  いつか、俺の知らないところで。  いつか、俺の知らない誰かに。  いつか――俺に対しても向けられてしまうのかもしれない。  そんな、可能性の可能性すら不確かな不安を呼んで、目尻に涙をためさせる。 「……それも真尋さんのせいですよ」  そう言って視線を落とした守屋はぽつりと、でもはっきりとつぶやいた。

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