115 / 171
4_51
「いっしょです」
まっすぐに、その言葉はくりかえされる。
「いままで黙ってましたけど、こんなヤキモチ二度とやかれたくないので白状します」
綺麗なくちびるが小さく息を吸い込む。やわらかく笑みをつくるその形は、
「真尋さんが俺を見つけたときから、俺は、真尋さんのことがすきでした」
およそ予想もしていなかった奇跡を、ささやく。
「ま、待って……」
心臓が――心拍数が、はやまる鼓動が、熱を生んで。呼吸をするのもやっとなくらい、喉の奥に涙がつっかえる。
「だって……ぜんぜんっ、俺の名前も知らなったじゃ……」
「知らなかったですけど、すきでした」
「う、っ……で、でも、ひどかったじゃんっ! 示談とか言ったし……っ」
「だから、そんなのはぜんぶ計算ですよ。俺の性格、もう知ってるでしょ?」
考えるより先に出ていく疑問に、守屋は淡々と答えをつける。粗を探すつもりはもちろん、ないんだけど。
名前も知らないのに、興味のない感じだったのに。それでも、守屋は……本当は、俺のこと――俺とおなじ、1年前から?
「おまえ、ほんと……」
意地が悪いでしょ? と、からかうように守屋が笑うから、あふれる予定だった涙が戻ってくる。まばたきもしないのに、こぼれていく。
「だから、もう二度とやめてください。俺は……真尋さんとちがって、男だろうが女だろうが妬くんです」
くちびるを、守屋はほんのすこしだけ噛んだ。それ以上の言葉を我慢するみたいに。
ふてくされた顔なんてはじめて見た。その見慣れない顔は、俺とおなじように焦れてくれていたんだって十分伝えてくれるから、軋むようだった胸の痛みも消えていく。
「そんな真尋さんじゃ、俺は……昔の自分にも嫉妬することになりますよ」
眉を寄せられても、だからいまはこわくない。この苦笑は、困った顔は、せつなくない。
ともだちにシェアしよう!