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わきあがってくる感情に、俺が背中に手を回すよりずっとはやく、
「頼むから、俺がどうにもできないことで……俺の知らないとこで、傷つくのはやめてください」
願うように祈るように、守屋は俺を抱きしめた。
「……これでもまだ俺から逃げようと思いますか?」
「お、思わない……っ」
抱き寄せられる力に息をつめながら、それでもしっかり答えを返す。背中に回された手から体温が伝わってきて、また涙が膨れあがる。
「秋村さん……つか、元カノ気になりますか?」
「ならない……っ」
くぐもる声で必死に首を振る。守屋の真っ白なTシャツに涙がどんどん吸われていくけど、守屋は抱えている俺の頭をはなさなかった。
「真尋さん」
ふいに、まっすぐ呼ばれて。
あの夜とおなじ声が、耳許に落ちる。
「……俺のことすきですよね?」
うずめている顔に大きなてのひらが添えられて、守屋と、ゆれる瞳と視線が重なった。
その答えを待つ瞳に。あの夜の問いかけにも届くように、
「すき……っ」
抱き返せなかった背中へ腕を伸ばして。
「すきだよ、守屋……っ」
伝えたくて、伝えたくて。伝えられなかった言葉で、抱きしめた。
「……ほんと」
守屋の首すじまでびちゃびちゃに濡らしていたら、止めていた息を吐き出すような、長いためいきが聞こえた。脱力するようにズルズルと、守屋は俺の肩にもたれてくるからすこし重い。
「よかった……俺ちょっとマジで……」
さっきのためいきを延長するような消えかかるつぶやき。その先を守屋はつづけなかったけど、普段あまりきかない口調と言葉に、心の底から安心してくれているんだと、胸がつまる。
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