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 遠くから、グラウンドの呼び声やかけ声が聞こえる。ボールを蹴るか打つ音も、かすかだけど聞こえている。  ひとつだけある大きな窓からの光で、チラチラとほこりが浮遊する。ロッカーとベンチ、その他備品で手狭な部室。よくある、昼下がりの学校の風景。 「ん……ん、っん」  そんなよくある日常の中に、非日常な――甘い声。 自分の声だってわかってはいても、どこか現実感なく耳に届く。 「んく、ん……っ」 「……真尋さん」  からんだ舌と舌が、滴る唾液で濡れた音。名前を呼ぶ守屋の、低いやわらかな囁き……と、俺のくぐもったあえぎ声。  こんなところで、こんなベッタリ濃厚に、男同士でなんてこと――とは、思うけど。2日越しの欲しい気持ちをお互い我慢なんてできるわけなくて。こじれていた分だけ欲求は募る。  まだキスだけなのに。俺はすでに息も絶え絶え。守屋はもちろん、余裕そうだけど。 「……ん、あっ」  たっぷり長めのキスからくちびるをはなされて、細くつながるお互いの糸が切れそうになるから、首に回した腕に力が入る。引き留められた守屋は口許で笑って、少し首を傾げた。 「……もっと?」 「えっ……あ、ぅ」  意地悪く笑われると思ったのにうれしそうに微笑まれると、俺のほうが予想外にあせって上手く言葉を返せない。  口をひらきかけて、やっぱりやめて。でもためらう視線は隠したいから、目を閉じてちょっとだけ顎をあげた。 「なんですか、それ……すげぇかわいい」 「かわいっ、くな……ん、ぅ」 反射的にひらいた目には、もうすでに間近の瞳が映っていて。薄く見つめてくる目許から漂う色気――には、耐えられなくてまた目を閉じる。

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