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「……そんなこと言うのも、俺だけにしてくださいよ?」 「ほっ、他に、誰に言うんだよ……」 「真尋さん……自分が押しに弱いってわかってないでしょう」  ジトっ、と見つめ返されて思わず笑いそうになる。  いつも無表情に近くて心情を読み取るのが難しい顔なのに、今日はわかりやすいからちょっとかわいい……  ――なんて、思っていられたのはすこしのあいだだけで。 「ん、あっ……ン、はぁ……あ、やっ」 「……ヤじゃないでしょ?」 「んっ……ぁん、きもち……いっ」  さっきまでとはちがう、激しくはないけどやさしくもない揺すり方で。耳の中まで舐められながら胸も両方いじられまくって。  すでになかがトロトロな俺は、甘ったるい意識の向こうに限界が見えてくる。 「……背中、痛みますか?」  うなじをくすぐっていたくちびるが、うかがうようにつぶやく。 「真尋さん、ちょっと色白なので……目立ちますね」  腰のすこし上までシャツを捲って、守屋はそんなことを言う。 「……へ、いき……痛くない」  声はそこまで暗くはないけど、触れてくる指はためらいがちで守屋らしくない。  昨夜「まだ痛い」なんて言ったのは当てつけみたいな気持ちからだけど、守屋は思いの外それを気にしているのかもしれない。 「きっと、すぐ……消えちゃうし」  言いながら、あと何日くらい残るかなと思う。守屋が俺に妬いてくれた、この痕は。 「……つけ直しますか?」 「え……?」  さらさらと、もう乾いた短い髪が、背中をすべる。散らばる痕を全部たどったくちびるが、最初に噛んだ首すじに戻ってきて。 「もし、真尋さんが誰かに脱がされても……俺のものだって、わかるように」  その淡い痕が消えるのを惜しむように、また甘く噛む。 「……そん、なのっ」  俺が誰のものかなんて、あの時から決まっているのに。いまさら“誰かのもの”になんてならないのに、なれないのに。

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