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「……俺されるより、するほうが好きなんですけど」
軽くためいきをついて、守屋は首を傾げた。のびた首筋は、きっと合図。
「……すこしだけですからね」
「ん……すこしだけでいい、から」
さっき頬をなでた時とおなじ、困ったように笑う顔をまぶたに閉じた。Tシャツからのびる首すじにそっとくちびるを寄せてみる。胸にてのひらをすべらせて、指を押し返す弾力を、爪でかいてみる。
「……う」
小さく、本当に小さく声が聞こえて。守屋の目許にうっすらと広がる赤みに、俺の背筋がゾクゾク音をたてた。
ど、どうしよう。なんかこれは……
「せ、誓……」
「……見すぎ」
にらんでくるのをやり過ごして、ちょっと噛み締められているくちびるを塞いでみる。すこしひらいたその中に、舌の先を入れ込んでみる。こぼれそうな唾液を吸いあげて、舌をからめてなぞってみる。
「ん、誓……せ、ぃ……ん、ん」
こくん、と守屋の喉が鳴る隙に、ぬるつく熱い先を――その全体を、てのひらでも指でも、なでてみる。擦ってみる。
「……っ、真尋さん」
すこしだけ逃げるくちびるが押し殺すように俺を呼ぶ。太腿に入る力が、置いている片手の下から伝わってくる。薄目に見えている肩が、こらえているからなのかすこしふるえている。息継ぎにくちびるを浮かせたあいだに、透明な糸がとろっと、たわんで落ちた。
これは……本当にこれはちょっと、守屋には申し訳ないけど。
「……ごめん。すごい、かわ……」
「あやまってもすみませんよ、こんなの」
やっぱりにらんできながら、守屋は早口に遮った。くちびるの端をつたう唾液を拭いながら、なんだか複雑そうな顔をする。
「俺がはじめてとか、絶対ウソでしょ」
「う、ウソじゃないしっ」
「じゃあいつ覚えたんですか、こんなアホみたいにエロいこと」
「……おまえのマネしたんだけど」
「……しなくていいです」
この反応、ちょっと面白いかも……なんて。ニヤニヤしそうなくちびるをこらえるのが難しくて。きっと守屋はいつもこういう気持ちなんだろうから、たしかにあんな意地の悪い顔になるのもわかる――とか、思ってしまう。
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