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「真尋さん……」
一瞬だけ守屋は驚いた。でもすぐに眉を寄せると、怪訝そうにきいてくる。
「……なんで泣くんですか?」
なにその顔、腹立つ! 俺なんか変なこと言いましたか的なっ!
「なんでとか、ホント性格悪いな、おまえ……っ」
「俺の性格の話じゃなくて……」
「わかってるよ! でもっ、言っていいことと悪いことがあるだろ!」
「だから、何の話ですか?」
頬を挟んできた両手に、逸らしていた顔を強引に戻された。聞き分けのないこどもを諭すような瞳に、自分との気持ちの差を嫌でも感じるから、震える身体を抑えていた力が抜けていく。
「俺、もう……いないじゃん。だって夏休み、今日までじゃん……」
膨れる涙が俺の眉をきつくさせるから、頭が痛くなる。さっきまでの甘かった言葉やその他諸々はなんだったのかと、やっぱり想っているのは自分ばっかりなんだと、胸も痛がる。
「だから夜はもうあの部屋にいない、のに……もうホントに嫌いっ、になるからな……ほんとにっ」
とまっていた涙がまたあふれだすのを守屋はゆっくりまばたきしながら見つめていたけど、
「……なんか、変だなと思ってたんですよ」
と、ふきだす笑いといっしょにつぶやいた。
「まさかなぁ、と……思ってましたけど。マジで期待を裏切らねぇ性格してますね、真尋さんは」
そう言って、俺の目尻を指で拭いおわると、慰めるようにやさしく頭をなでてくる。
頭をなでるのは時々しかしない守屋の甘やかしだから、なにか相当に“かわいそう”だと……思われていることはわかった。でもそれは、“いま、俺が泣いているから”が理由じゃない、気がする。
「性格が悪いのは俺じゃなくて、あの先生ですよ」
「ど……どういうこと?」
話が見えなくなったのは俺のほうで、状況が飲み込めないままに眉を寄せた。なでていた手をとめた守屋は考えるように視線を落としたけど、
「寮に戻れば、すぐわかりますよ」
すこし笑いながら、そんなことを言う。
「今日は夏休み最終なんで、練習時間短いんです。もうみんな帰ってる頃だろうし……きっと、ちょうどいいと思います」
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